研究情報

雨水活用普及に向けた技術・普及啓発手法開発による地域災害レジリエンスの向上

研究者

メンバー(所属)研究テーマ(個別)役割
笠井利浩(環境・食品科学科)戸建住宅用スマート雨水活用総合給水システムの開発統括、調査・総合評価
矢部希見子(環境・食品科学科)雨水貯留槽内の微生物及び水質の解析と評価水質評価
近藤晶(デザイン学科)雨水をテーマとした地域ブランディングによる地域活性化の試み普及・広報
中城智之(電気電子工学科)“ふくいPHOENIXプロジェクト”との連携コーディネータ

予算

単位:千円

備品研究旅費報酬雑費郵便図書その他合計
H29790165018607900501102505500
H308001770225081001001004406270
H315501800190081002501006206030

*H30以降は予定金額

研究スケジュール・内容:(平成29年度~平成31年度)

研究代表者は、研究を統括すると共に有機的に関連付け、国土交通省、環境省、五島市との連携や日本建築学会の雨水関連委員会での情報収集を行いながら、雨水関連企業(ホクコン、前澤化成工業等)と研究成果を活かした製品開発や雨水活用の普及啓発活動を行い、販路の拡大にも取り組む。また、“ふくいPHOENIXプロジェクト”と連携し、衛星データからの地域環境情報を活かしたスマート雨水活用総合給水システムの効率的運用を検討する。

平成29年度

①笠井利浩: 個人住宅向用スマート雨水活用システム(一部特許化済)の運用結果から得られた問題点の整理と解決法を検討する(4-5月)。赤島に設置するスマート雨水活用総合給水システムを設計し(5月)、稼働シミュレーションによる稼働効率の確認と設計修正を行う(6-7月)。また、同時に島内活動に関するコンセンサスと連携企業への協力依頼等を図る(4-7月)。設計したスマート雨水活用総合給水システムのパイロットシステムの設置作業を協力企業と連携して行う(8-9月)。稼働データの蓄積を行い(10-3月)、システム改良に向けた検討を矢部らの研究成果を踏まえて行う(2-3月)。なお、研究成果については、日本建築学会(8月)、日本雨水資源化システム学会(11月)の年次大会で発表すると共に、日本最大級の環境展示会であるエコプロ2017(12月)へ出展する。



表 赤島島内の雨水貯留槽の水質分析結果(2017/5/4)

②矢部希見子: H28年度のFS研究に継続して、福井市立東安居小学校の雨水タンク内の水層や沈殿物等6カ所に局在する微生物の内、各部位に存在する主要な微生物を同定し、微生物群の違いを明らかにする(4-8月)。また、一般細菌検査による微生物数の測定においては、培養条件の最適化や極小微生物の扱い等について更に検討する(6-8月)。また、笠井らによって既に採取済みの五島列島赤島のタンク内のサンプルについて、同様な微生物の解析を試みる。これによって、異なる環境に設置されたタンクの微生物層の違いについて予備的検討を行う。さらに、タンク内の水や沈殿物中の微生物の解析だけではなく、それらが含む様々な成分を網羅的に解析する事を目的に、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー質量分析計(HS-GCMS)の利用を試みる。H29年度は、水層や沈殿物等の各種サンプルを用いて、GCMS解析のための前処理の最適化条件の検討及び機器の測定条件を検討する(9-12月)。

③田中真由美: H28年度のFS研究を継続する形で、雨水貯留槽の設置状況に関する現状分析を行う。企業が自発的に公開している環境報告書内で雨水・雨水貯留槽というキーワードがどの程度頻出しているか、テキストマイニングという新たな統計的手法を導入する事で、分析調査する予定である。また、雨水貯留槽に関して、積極的に設置及びメンテナンス、またその状況をPRする企業の特徴を抽出する事で、雨水貯留槽設置の推進を計画する地方公共団体に対して提言する。以上の成果報告を、日本会計研究学会(9月)、日本社会関連会計学会(10月)、日本雨水資源化システム学会(11月)、エコプロ2017(12月)で行う。

④近藤晶: 住民との信頼関係構築のために、住民が要望する案内看板の設置や、意見交換の場を随時設ける。また、エコプロ2017(12月)へ出展し、赤島の現状や特別研究全体の取組み等を紹介する。また、PR動画の作成、あめゆきCafeへの情報提供、雨水資源化システム学会や環境芸術学会等に参加して多方面の協力を仰ぐ。以上と並行し、住民の聞取調査等により赤島の潜在的魅力を発見し、長期的地域活性化に向けた島内事業の可能性を探り、名称やロゴマークのデザインを行う。さらに、広報手法の一つとして検討中のドキュメンタリー映像コンペティションへの応募を見据え、山形国際ドキュメンタリー映画祭等を視察する。


図 H27試験撮影画像

⑤中城智之: “ふくいPHOENIXプロジェクト”で得られる地域環境情報とスマート雨水活用システムの連携の可能性を検討する(4-3月)。

平成30年度

①笠井利浩: 前年度設置のスマート雨水活用総合給水システムのパイロット装置の稼働結果や矢部らの研究成果を参考に、再度稼働シミュレーションを行ってシステム全体の再検討を行う(4-7月)。その際、コンピュータ制御式初期雨水除去装置の構造や制御法についても検討を行い、その結果に基づいて新たに改良した装置を設置する(8-9月)。また、協力企業から提供される各種装置類の導入の可能性検討を行い(6-7月)、導入可能なものを追加設置し(8-9月)、稼働データの計測を継続する(10-3月)。なお、研究成果については、日本建築学会、日本雨水資源化システム学会で発表すると共に、エコプロ2018(12月)へ出展する。

②矢部希見子: 固相抽出法を追加する等、HS-GCMS解析条件の更なる最適化を図ると共に、実際の雨水タンク内の各部位のサンプルを用いて成分解析する。東安居小学校及び赤島のタンクのサンプルを中心に、基礎的データを蓄積する(4-8月)。また、笠井らの協力を得て、赤島内の複数のタンクのサンプルについて微生物解析及びHS-GCMSによる成分解析を行い、データを蓄積し、そのデータをタンクの設置環境や使用状況のデータと対応させてタンク内の水質変化の要因に関して情報を蓄積する(4-12月)。また、必要に応じ、雨水流入から蓄積日数に応じた水質変化を経時的に解析し、食品微生物(乳酸菌等)を雨水タンクモデル系に添加して、水質の変化を追う事で、雨水タンク内の動態変化及び変化を誘導する要因を明らかにする(9-12月)。

③田中真由美: 雨水貯留槽設置をさらに普及させるためには、水資源が持つ価値を金額で評価し、その重要性をPRする事が必要である。人々に環境の価値を直接尋ねる事で環境の価値を評価する表明選好法、その中でも仮想評価法(Contingent Valuation Method:CVM法)を用いて水資源が持つ価値を金額で評価する。上述のCVM法はアンケートによる分析調査であり、H29年度に笠井が雨水貯留槽を設置した赤島でアンケート調査を行う。その成果報告を、日本雨水資源化システム学会(11月)、エコプロ2018(12月)で行う。

④近藤晶: H29年度に行ったブランディングの企画コンセプトや発見した魅力、島内収入となる事業内容に応じたWebサイト構築を行う。Webサイトは研究期間後も継続運営できるよう、地元住民による更新を見据えて構築する。実際に利用して頂き修正すべき点を発見するために、年度前半の公開を目指す。また、H27年度や前年度に撮影した動画素材やH30年度に追加撮影した素材を用いて、ドキュメンタリー映像コンペティション応募のための映像制作を本格的に行い、山形国際ドキュメンタリー映画祭や座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバルでの入賞を狙う。また、前年度に引続きエコプロ2018への出展や学会参加等で多方面からの情報提供や協力を仰ぐ。

⑤中城智之: H29年度に配信が開始される衛星データによる地域環境情報のスマート雨水活用総合給水システムへの活用を検討する(4-3月)。また、“ふくいPHOENIXプロジェクト”との連携により得られる効果を近藤らと協力してPRする(4-3月)。

最終年度

①笠井利浩: 研究期間中に得られたデータから、スマート雨水活用総合給水システムの完成形を検討し(4-7月)、改良を行って継続稼働可能なシステムを構築する(8-9月)。その結果を基に、水道施設がある一般的な市街地に適応するシステムを検討し、新たなスマート雨水活用総合給水システムを設計する(10-12月)。このシステムについて、本赤島プロジェクトに協力頂いた雨水関連企業を中心に商品化について検討する(12-3月)。さらに、島民による本システムの継続的な運用についての引継も行う(3月)。なお、研究成果については、日本建築学会等での発表やエコプロ2019(12月)に出展すると共に論文発表する。また、得られたノウハウの特許申請を検討する(3月)。

②矢部希見子: 雨水タンク内の微生物及び成分変化の解析を続けると共に、得られたデータを総合的に解析する事で、雨水タンク内での微生物や成分の動的変化が明らかとなる。さらに、微生物や成分構成に影響を与える要因が明らかになる(4-10月)。得られた成果は、口頭発表・論文発表を行う(4-12月)。確立した水質解析手法については、信頼性の向上を目指したのち、広報に努める。

③田中真由美: 都市部でアンケート調査する。最終的には、雨水貯留槽の設置及びメンテナンスにかかるコスト(費用)と雨水貯留槽により得る事が出来る水資源の価値(便益)を比較検討した上で、個人・地方公共団体・企業等に雨水貯留槽設置を提言する。その成果報告を、日本会計研究学会(9月)、日本社会関連会計学会(10月)、日本雨水資源化システム学会(11月)、エコプロ2019(12月)で行う。

④近藤晶: 前年度までの事業のテスト運営中に起こった問題の解決や、アクセス解析により特に注目されるコンテンツを抽出して積極的にそのコンテンツを掲載する等を行い、それをマニュアル化する事で住民による本格的な運営に向けた移行を行う。これらの成果は、前年度に引き続きエコプロ2019(12月)への出展や、学会報告する。

⑤中城智之: スマート雨水活用総合給水システムへの地域環境情報衛星データの配信方法改善について検討すると共に、“ふくいPHOENIXプロジェクト”との連携による成果をPRし、全国的認知度向上に取り組む(4-3月)。

年次目標

H28年度FSで得られた雨水活用の普及に向けた研究成果を基に、より具体性のある研究を展開する。研究活動は、国土交通省(水資源部、離島振興課)、環境省及び地方自治体(五島市)との連携を図りつつ、長崎県五島市赤島でのプロジェクトを通じて、雨水関連企業との共同研究や新たな商品開発に向けた取組みを行う。本研究は5名体制で研究を進め、内1名(中城)はスマート雨水活用システムへの人工衛星から得られた地域環境情報の活用を目指し、“ふくいPHOENIXプロジェクト”との連携の可能性を図るためのコーディネータとして参画する。他の4名については、①戸建住宅用スマート雨水活用総合給水システムの開発(笠井) ②雨水貯留槽内の微生物及び水質の解析と評価(矢部) ③雨水貯留槽設置による経済性評価(田中) ④雨水をテーマとした地域ブランディングによる地域活性化の試み(近藤) のテーマで3年間計画で研究を進め、雨水活用の一般社会での普及に向けた研究を行う。

②矢部希見子: HS-GCMSの結果を踏まえ、さらに固相抽出法を追加して、より高感度で再現性の高いGCMS解析条件の確立を目指す。また、笠井らの協力を得て、赤島内の複数タンクのサンプルについて微生物解析及びHS-GCMSによる成分解析を行い、データを蓄積し、そのデータをタンクの設置環境や使用状況のデータと対応させる事で、タンク内の水質変化の要因に関して情報を蓄積する(4-12月)。また、必要に応じ、雨水流入から蓄積日数に応じた水質変化を経時的に解析し、または、食品微生物(乳酸菌、酵母やコウジカビ等)を雨水タンクモデル系に添加して、水質の変化を追う事で、雨水タンク内の動態変化及び変化を誘導する要因を明らかにする(9-12月)。

③田中真由美: H29年度の現状分析を踏まえ、雨水貯留槽設置をさらに普及させるためには水資源が持つ価値を金額で評価し、その重要性をPRする事が必要である。環境の価値は利用価値と非利用価値に大別されるが、一般的には利用価値の中でも「直接的利用価値」に焦点が当てられる。これは「直接的利用価値」が水道料金等の市場価格の事を指すからである。市場価格を基準にした評価では、水資源の価値は過小評価となるため、H30年度は環境の価値を人々に直接尋ねる事で環境の価値を評価する表明選好法、その中でも仮想評価法(Contingent Valuation Method : CVM法)を用いて水資源の価値を金額で評価する。CVM法はアンケート分析調査であり、まずは少ないサンプル数で行う事とし、笠井らが雨水貯留槽を設置した赤島でアンケート調査(仮定災害は渇水)する。

④近藤晶: 赤島の収益となる事業を運用可能なレベルにまとめ、地域に設営・サービスの提供を行い、赤島で実際にテスト運営する。また、前年度に発見した赤島の魅力を、事業のPRにあわせ計画した広報手法により広く知らせる。また、このテスト運営により計画の問題点を明らかにし、広報手法の1つとしてターゲットユーザーへの魅力訴求方法に適したデザインのWebサイト開設を行いながら、地元住民にも更新可能なシステムの構築を図る。また、前年度にも行っている多方面への情報提供も引き続き行い、協力を仰ぐ。

⑤中城智之: H29年度に配信が開始される衛星データによる地域環境情報を基に、笠井らが開発するスマート雨水活用総合給水システムへの地域環境情報の活用を検討する。また、本研究と“ふくいPHOENIXプロジェクト”の連携により両者の地域社会への認知度向上に取り組む。これは、特に近藤と連携して行い、宇宙から得られる情報と人類社会にとって最も重要な水資源確保と都市部での洪水緩和等の減災の関わりに役立つ事をPRする。

最終年度

①笠井利浩: これまでに得られたデータを基に、スマート雨水活用総合給水システムの最終的システム構成を検討し、改良を行って継続稼働可能なシステムを構築する。これを基に水道施設がある一般的な街に適応したシステムを検討・設計する。研究成果については、本赤島プロジェクトに協力頂いた雨水関連企業を中心に、そのノウハウを活かした商品化について検討する。さらに、島民による本システムの継続的な運用についての引継も行う。

②矢部希見子: 得られたデータを総合的に解析する事で、雨水タンク内での微生物や成分の動的変化が明らかとなる。また、さらに雨水タンクの水質に影響を与える要因が明らかになる(4-10月)。他の研究者等との協力により、社会で使われている多くの雨水タンクについて、確立した水質検査法を利用し、雨水の有効性や利用方法を整理し、口頭発表や論文発表を行い、成果について広報に努める(4-12月)。

③田中真由美: H30年度におけるCVM法の分析調査を踏まえた上で、少ないサンプル数ではなく、より多くのサンプル数を集めるべく、アンケート調査場所を離島ではなく、都市部に移す予定である(仮定災害は渇水及び洪水)。これにより、水資源が持つ本来の価値を金額で評価する事が可能になると思われる。最終的には、雨水貯留槽の設置及びメンテナンスにかかるコスト(費用)と雨水貯留槽により得る事が出来る水資源の価値(便益)を比較検討した上で、個人・地方公共団体・企業等に雨水貯留槽設置を提言する。

④近藤晶: 最終年度は赤島への収益化を目的とした事業のテスト運営を行った際に明らかとなった問題点の修正、Webサイトのアクセス解析により、広報手法や掲載コンテンツの精査等、H30年度に行った事のターゲットユーザーへの訴求精度や効果を高めた上で、住民による運営へ移行する事を目標とする。これにより、地域活性化の永続的な効果が期待でき、雨水活用を語る上で貴重な地域の存続が見込まれる。

⑤中城智之: 前年度の検討結果を踏まえ、スマート雨水活用総合給水システムでの衛星データによる地域環境情報の配信方法の改善について検討する。また、引続き本研究と“ふくいPHOENIXプロジェクト”の連携による成果をPRし、全国的な認知度向上に取り組む。



図 赤島のスマート雨水活用総合給水システム



図 雨水集水面設置イメージ