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日本の食の安全を守りたい。使命感でつかんだ食品衛生監視員内定

大学院 工学研究科 応用理工学専攻(博士前期)環境生命化学コース 2年

山口 崇大

環境情報学部環境食品応用化学科で学び、食品衛生に関心を持った山口さん。世界の食糧問題の解決につながるカビ毒の研究に取り組みながら、日本の食の安全を守る食品衛生監視員の採用試験にチャレンジし、内定を獲得した。試験勉強でのエピソードや、食品衛生監視員の仕事にかける想いをうかがった。

カビ毒の研究を続けるために大学院へ

山口さんが食品に関心を持ったのは高校時代だった。部活動で新体操に打ち込み、「体づくりは筋トレだけでは不十分。睡眠や休息、そして何を食べるかが重要」と食物の栄養に着目。食品について広く深く学ぼうと、環境情報学部環境食品応用化学科に入学した。食品バイオコースを選択し、微生物学、食品衛生学、栄養化学などの講義を受ける中で、栄養以上に興味を持ち始めたのが食品衛生だった。「日本は摂取カロリーの約6割を輸入食品に頼っており、海外から入ってくる食品の安全性確保の重要性を痛感しました」。

食品衛生は主に2つの分野からなり、一つは微生物や寄生虫などに関する生物分野、もう一つは農薬や添加物などに関する化学分野である。山口さんは、微生物を扱う生物分野へ進み、穀物に発生するカビの一種が出すカビ毒アフラトキシンの研究を続けている。「学部時代は、土壌中のアフラトキシンの生産菌有無を調べたり、納豆菌を利用した土地改良剤にカビによるアフラトキシン生産を抑制する効果があるかどうかを調べたりしました」。これらの研究をさらに深めたいと大学院へ進学。アフラトキシンと他のカビ毒を組み合わせ、カビ同士がどのように影響し合うかなどカビ間の相互の関係性を探っている。「アフラトキシンのカビ毒による穀物汚染は世界的な問題。アフラトキシン汚染により収穫された穀物が廃棄されて経済的損失を招いているし、SDGs(持続可能な開発目標)の「飢餓をゼロに」という目標達成の阻害要因にもなっている。アフラトキシン汚染の防御方法を見つけるのは意義あることだと思っています」。

食品衛生監視員を目指し、スキルアップを図る


山口さんが大学院へ進んだのは、「食品衛生監視員」を目指そうと決心したからでもあった。食品衛生監視員は、海港や空港に設置されている厚生労働省の検疫所で輸入食品を監視する国家公務員だ。業務は大きく3つに分けられ、1つは輸入食品が日本の食品衛生法に適合しているか否かをチェックする監視業務。2つ目は病原性微生物や寄生虫、残留農薬、添加物などが含まれていないかを調べる検査業務。3つ目が国内に常在しない感染症病原体の侵入防止のために、海外からの船舶、航空機、これらの乗組員、乗客に対し検疫を行う業務である。

食品衛生の重要性や世界の食糧問題を知るに従い、輸入食品への依存度が高い日本の食の安全を守りたいとい気持ちが強くなった山口さん。食の安全を水際で守る食品衛生監視員の仕事こそ自分のやりたいことだと確信し、使命感が湧いてきたという。「この仕事には、検査や検疫といった研究機関のような業務がありますが、これらに携わるには、今の自分の知識や技術では不充分だと感じました。カビ毒の研究継続と同時に、食品衛生監視員の仕事に必要なスキルアップを図りたいと考え、大学院への進学を決めました」。

先生の指導を受けながら試験勉強に集中

食品衛生監視員になるには、国が実施する採用試験に合格する必要がある。2021年度の試験は、6月に筆記による第1次試験、7月に面接による第2次試験が行われた。山口さんが本格的な受験勉強を始めたのは4月初め頃。「研究室の先生が、研究を休止して試験勉強に集中する約2か月の時間をくださったんです」。しかし、過去の問題を入手できないという予想外のことが発生。食品衛生監視員の募集人数は少ないため、問題集などは市販されていない。人事院に申請すれば過去問題を取り寄せることができるが、申請から手元に届くまでの期間は2か月。間に合わないとわかり、ホームページに一部掲載されている問題例を見てパターンを把握。広範な分野から出題される教養問題は、他の公務員試験の問題を数多く見ることにした。「5分でもいいから、目に焼き付ける感じで何度も繰り返し見ました」。専門分野については正確な知識と理解を習得するために、大学で学んだことを改めて勉強。これらが功を奏し、1次試験を突破した。

2次試験に当たっては、模擬面接による練習を数回実施。面接官役を引き受けてくださったのも研究室の先生だった。「専門的な質問をしていただけるので、知識はあるけど正確に説明できないことなど弱点がわかるようになりました」。本番では、最初は緊張したものの、練習を重ねた質問には的確に回答。自身の短所を問われ、「考え過ぎること」と答えたところ、面接官が「考え過ぎるのは、この仕事に関しては悪いことではないよ」とフォローしてくださったことが印象に残っているという。

安堵した試験合格から採用決定へ

全体を見ればスムーズに対応できた面接だが、合格する自信はなかったという山口さん。なぜなら、冒頭、書類記載の修士の卒業年月が誤りではないかと事務的な質問をされ、「間違っていますか。すみません」と答えたことが気になっていたからだ。しかし、8月中旬に合格通知が到着。「うれしいというより、ほっとする気持ちが強かったです。修士の卒業年月は間違えていなかったし、落ち着いて考えれば、気にすることではなかったと思えました」。

申込者377人に対し最終合格者は91人。合格率24%の難関だったが、国家公務員の場合、筆記試験の成績などが実際の採用に影響する。食品衛生監視員の場合、合格後、採用内定を得るには、全国4か所で行われる採用面接を通らねばならない。大阪で採用面接を受け、9月に内定通知が到着。2022年3月に勤務地が決定する。

目標は、一人前の食品衛生監視員になること


食品衛生監視員が勤務する検疫所は本所、支所、出張所があり、全国で110か所。北海道から沖縄まで全都道府県への配属可能性がある。「新しい経験は自分の興味が広がるチャンス。全国転勤があり、働く場所や環境が変わることも楽しみです」と話す山口さん。食品衛生監視員になるに当たっての目標は、早く仕事に慣れ、一人前になることだ。「現場へ行けば、これまでわかっているつもりになっていたことが、実はよく理解できていなかったと気づくこともあるはず。まず、そういう部分を叩き直そうと思います。自分の行動が国民の食の安全に直結していることを自覚し、技術を磨き続けます」。


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