FILE No.80

デザイン学科設立10周年

環境情報学部デザイン学科教授

川島 洋一

福井工業大学にデザイン学科が設立して今年で10周年を迎える。9月28日には、デザイン学科10周年記念イベントが開催される予定。この学科を立ち上げた1人が川島洋一教授だ。学科設立から今までの経緯とともに、ものづくりで今後ますます重要視されるデザインについて話を聞いた。

新しい学科として立ち上げる


デザイン学科は2009年に、建設工学科建築学専攻(当時)空間芸術コース、経営情報学科マルチメディアコース、そして新たにプロダクトデザインの分野を新設し3つの分野を合わせて一つの学科として立ち上がった。その際にデザイン学科の準備委員会の1人として携わったのが、当時、建設工学科で教えていた川島教授だ。その頃の福井工業大学といえば男子学生が多く、女子学生はほとんどいない状況。さらには理系離れも進んでいたため、大学としての新たな可能性を見出す重要な役割だった。授業のカリキュラム作成や新人教員の確保など、新入学生の受け入れ準備は多岐にわたり、日々模索しながら進めていった。

大学全体のイメージが変わる


次に取りかかったのがデザイン学科のスタジオ(実習室)。以前からあった古い教室のリノベーションデザインを手がけた。当時としては教員が大学の施設を設計するのは珍しいことで、川島教授は建築の学生たちと共に、ガラスを使った清新なイメージのスタジオを設計した。そして、デザイン学科開始の年には、募集定員50名を上回る出願があり、大反響となった。大学への出願人数も目に見えて増え、その結果は大学全体へ波及していった。川島先生も「結果的に女子学生も増えたので、工業大学のイメージを変えることができたのかな」と胸をなでおろした。しかし、ほっとしたのも束の間、やるべきことは山積みだった。女子学生が増えたことにより、女子トイレプロジェクトも始動した。女子トイレがわずかしかなく、女子トイレのスペースを工夫して確保したり、女子専用の化粧ブースを設置するなど、明るく使いやすいトイレを増やしていった。

実習中心の教育が将来へと繋がる


新設したデザイン学科の教育内容にも力を注いだ。「デザインの知識がある人を育てるのではなく、デザイナーを育てる」ことを目標に、授業の中心は手を動かす実習がメイン。実習中心にすることで、自分たちの手で作品を制作する能力を向上させている。また、大きな特色が1年中いつでも入れる「24時間開放のスタジオ」だ。学生同士がいつでも共に作業できる空間で制作することにより、切磋琢磨できる環境が生まれ、さらに先輩後輩の交流にもつながっている。そして学科内につくった「F’s Design Studio」は、地域の企業や自治体から依頼を受けて行うデザイン事務所。授業とは違い、社会と直接関わることで実務経験を積み、将来の仕事へつなげる取り組みだ。そのため、卒業生の約7割はデザイナーやクリエイターなどの専門職として、デザインを生かす仕事へと進んでいる。

手を使って作れると感じる心


また、学科内では学生が参加できる様々なプロジェクトがある。「えち鉄プロジェクト」はえちぜん鉄道株式会社とタッグを組んで、電車の車両内に七夕飾りなどをする取り組みだ。今年度は宇宙アートをテーマに電車の内装や外装にデザインを施した。伊自良温泉がある限界集落では、学生たちがイベントに参加して村人と交流を重ねており、卒業後に移住する学生まで出てきた。何事にも自分の手で取り組んでいる学生たちを見ると、デザイン学科をつくって本当によかったという川島教授。「大学でデザインを学んだ強みを社会に出たときに発揮ししてほしいですね。手を使えば自分で作れると思うことが彼らの人生の強みになればいいなと思います」。

地域に対して何ができるかを考える学科へ


学科ができて10年が経過し、世の中のものづくりに対する価値観も大きく変わった。単にいいものを作ればいいという時代が終わり、実際に生産する現場は次々に海外へ出てしまっている。新しい価値観でものを作っていかなければならない中で、デザインがすごく重要視される時代になり、ますますデザイン学科は工業大学には必要な学科だということがよりハッキリしてきたという。そうした中で、川島教授はデザインをもっとローカルに考えなければならないことを考えるようになった。学生は近県の学生が中心となるため、デザインの力で地域にどのような貢献できるかが大事だと思い、2017年からカリキュラムを再編した。「これからは地元にある資源を生かして何ができるか考える。そういう方向性にしていきたいと思っています」。これからデザイン学科が取り組む活動にますます目が離せない。


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