FILE No.30

放射線取扱主任者資格

原子力技術応用工学科 教授

来馬 克美

「放射線取扱主任者」は、放射性同位元素や放射線発生装置の取扱において、放射線被ばくによる健康被害を防止するための監督者になることができる国家資格。第1種と第2種があり、一般的には社会人が目指す資格とされ、学生時代に取得するのは難しいとされている。福井工業大学ではこの資格に原子力技術応用工学科の学生が挑み、毎年1~5名程の合格者を輩出している。しかし、平成25年には合格者は13名と急増。その合格者アップの背景には、来馬克美教授をはじめとする教授陣の情熱とサポートがあった。

放射線取扱主任者の資格は強力な武器に


一般的に、密封されている放射線源を取り扱う事業所では放射線取扱主任者第2種、密封されていない放射性物質を扱うところでは第1種の資格保有者を必ず配置し、責任をもって管理することが義務づけられている。放射線を扱う事業所と聞くと原子力発電所を思い浮かべがちだが、最近では放射線を使った品種改良や注射容器などの医療機器の滅菌にも利用されており、その仕事の範囲は広がりつつある。そのため、大学在学中に資格を取得すれば就職に有利なるということから学生の関心も高い。「資格を持っている、イコール放射線に関する知識を持っているという証。難関であればその努力も認められる。どこそこの大学の学生なんてことは問題ではない。国家資格は全国共通ですから、どこでも通用する強力な武器になる。だから、これまで大学でもこの資格取得を推奨してきました。就職難といわれる今、就職に有利とされる資格を一人でも多くの学生にとってもらい、将来の選択肢を広げてもらいたいのです」と思いを口にする来馬先生。

資格試験対策の必要性を実感


ただし、普通に試験勉強していても受からないのが難関たる所以。「基本的には、第2種の試験は2年前期までの授業をしっかり理解していればいいはずですが」というが、そう簡単ではない。「試験を受けるのは入学早々の1年生もいる。つまり、まったく学んだことがない問題を解かなくてはいけない。1年生で受かるのはめったにないこと。自分なりに勉強したけど受かりませんでした、という事がほとんど。2年生、3年生なら2種の資格を全員とって卒業してほしいところですが、そう簡単じゃない。授業だけでは合格ラインに届いていなかったと考えている」と、改めて試験対策の必要性を痛感する。

特別講義で合格率アップを目指す

そこで平成25年度から始めたのが特別講義だ。その準備として、教授陣がそれぞれに分担し、過去54回の試験問題を集め、各分野ごとに整理。できあがった教材は100ページ以上にも及んだ。「試験は過去問題をしっかり解いていれば大丈夫といわれています。過去問題を制する者は試験を制するわけ。ただ、過去問をやみくもにやっても効率が悪い。分野ごとにまとめれば、よく似た問題が並びわかりやすいでしょ」。
資格試験が行われるのが8月下旬。その2ヶ月前の7月に特別講義は始まった。参加者は25名ほど。教室がいっぱいになるほどの盛況ぶりで、学科教員の指導にも自然と熱が入る。特別講義では作成した過去の問題集を徹底的に攻略、あわせて授業で学んだこともおさらいしていくスタイルで進んでいく。ほとんどの学生が欠席することなく、熱心に講義に向き合う姿がそこにあった。

合格者数アップに喜びと安堵感

結果は、第1種に1名、第2種は12名が合格。「嬉しいですね。特別講義を行った甲斐がありました。特に1種は超難関ですから。もちろん参加者全員が受かったわけではありませんが、5割ほどは合格、これまでにない結果です。1年生は大変だろうけど、2年生、3年生は授業内容を基本から再確認できるから特に効果的だったんじゃないかな」と笑顔をのぞかせる。
やみくもに勉強していても合格は難しい。7月に特別講義で基礎からおさらいし、8月の夏休みに自主勉強で鍛えれば、合格はほぼ確実になるという道筋を学生に示す形となった。

学生の意欲を受け止め、しっかりサポートしたい


「今回1年生2名が第2種に合格しました。現1年生は、福島原発の事故の影響もあり、ある意味では原子力が厳しい状況の中で原子力を学びたいという意欲を持って入学した学生ばかり。目的意識が明確で、やるからには受かりたいという意欲が他の学年よりも強いから、この結果につながったのだと思います」と分析する。
原子力技術応用工学科では、特に資格取得に積極的な学生が多い。そのため、資格に関する相談のため来馬先生のもとを訪れる学生も多いという。「放射線取扱主任者と同様、X線や技術士補など様々な資格がありますが、授業だけで合格することは困難な分野も多い。意欲のある学生はなんとか応援したい。やるからには受かってほしい。だから学生から相談されればきちんと対応し、参考テキストなどを紹介、疑問があれば一緒に解決していく。それが私たちの役割りでもあるのです」。

原子力・放射線の可能性を信じ前に進んでほしい


来馬先生は、福井工業大学で教べんに立つ以前は、福井県の職員として、40年にわたり行政の立場で原子力発電所の安全対策、防災対策、地域共生に取り組んできた原発のスペシャリスト。「福島第一原発の事故以来、原子力発電をめぐる環境は混とんとして、先が不透明に感じられます。しかし、将来性のある産業であることは事実。若狭湾エネルギー研究センターでは、原子力で電気を作ることだけじゃなく、放射線による病気の治療や食品の新種改良を行うなど、さまざまな分野の研究も進めています。原子力や放射線は実は大きな可能性を持つ科学技術の一つ。だから原子力を利用しないことはありえない。安全に原子力が利用される現場は、日本だけじゃなく世界中にある。その中で原子力技術応用工学科の学生は、自分はどういう分野に進むべきかをしっかり考え、前に進んでほしい」と学生に熱いエールを送っていた。


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