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道の駅「西山公園」の基本設計・監修

建築生活環境学科 教授

内村 雄二

今年の4月5日、鯖江市の中心地に位置し、ツツジの名所として知られる西山公園に道の駅「西山公園」がオープンした。5月の「つつじまつり」をはじめ、週末や晴天の平日には家族連れや観光客が訪れ、賑わいを見せる道の駅。この基本設計・監修を担当したのが、建築生活環境学科(2015年4月より建築土木工学科)の内村雄二教授だ。

西山公園とブリッジでつながる道の駅が完成


西山公園に沿うように建てられた道の駅「西山公園」。建物はメガネの街を彷彿とさせるようなメタルとガラスを基調とした。越前漆器の漆黒と越前和紙の雪をモチーフに、公園の花や木々と調和するような色を採用した。西山公園の自然と調和した佇まいをみせ、1階のテラスや2階の交流室からは名物のつつじを眺めることができる。なかでも注目を集めているのが、公園と道の駅をつなぐ支柱のない約30mのブリッジ。これまで広場までの階段を上るのが困難だったとう人が無理なく気軽に西山公園を散策できるようになったと好評だ。「橋の上にいるとまるで空気の上を歩いているように感じられるはず。眼下に広がる景色もぜひ楽しんでください」と内村先生は話す。

住民、専門家と一丸となって答申づくり


大学の役割として研究や教育と同時に社会貢献が重要になっている。福井工業大学では平成21年7月に、鯖江市、鯖江商工会議所と地域連携協定を締結。平成23年、西山公園道の駅建設が決まった際、この地域連携協定が縁で内村先生は西山公園道の駅検討委員会に参加することになる。
まず最初に取り組んだのが、基本コンセプトや空間構成、規模の概要、運営管理のあり方をまとめる答申づくりだった。地元、専門家、市民代表による勉強会や会議を重ねながら意見交換を行い、基本コンセプトを仕上げていく。熱い意見が飛び交う活発なやり取りが繰り広げられた。こうして専門家と地元の意見をまとめた市長答申は高い評価を受け、実現化のための基本設計を内村先生が受託研究することに決まった。「地元の方にとって大きな駐車場は迷惑になりがちですが、多くの方が理解を示してくれました。というのも、西山公園には広場や動物園はあるが落ち着いた居場所がない。買い物をしたり、雨の日でもくつろげるスペースなどの利便施設があれば、という思いが地元の方にあり、反対する方がいなかった。驚くほどスムーズに意見がまとまりました」。

OEDで理解を深める


市長答申を受け、実現化のための基本設計づくりが本格化する。内村先生が得意とするのが、ODE(オープン・デザイン・エンバイロメント:地域住民と議論をしながら実施案を選択していくという計画設計環境)という手法。「税金を使った施設というのは、斬新なデザインうんぬんではなく、何より利用されることが肝心。だから専門家だけじゃなく住民やエンドユーザーにも参加してもらい、意見を吸収して実施案を構成していくことが大切なのです」。
イメージしにくいブリッジや建物全体の案は、模型やCGシミュレーションを駆使しながら参加者の理解を高め、そこからさらに意見をまとめ、基本計画の合意に導いていった。

基本コンセプトは、しぶとい建築=ロング・ライフ・ビルディング


この道の駅の基本コンセプトは、“ロング・ライフ・ビルディング”。「良い建築とは、長く使われる建物だという考え方があります。デザインや品格も大切ですが、意外と見落とされがちなのが長く使われること。その本質を思索し、どういうテーマにするかを考えるのが建築家の役割です」。
当初、何度も足を運んだという西山公園。ちょうどつつじまつりで大勢の人で賑わう中、思いがけない風景を目の当たりにする。それは、広場で踊りを披露しようと汗を拭いながら長い階段を行き来する着物の女性、階段に躊躇するベビーカーの親子、階段を上りきれなくて途中で引き返す年配のグループの姿。「衝撃を受けました。憩い場である公園の玄関ともいえる入口に長い階段という障害があったのです。階段数はなんと84段。引き返す人がいるというのも無理のない高さ。今回、この長い階段をいかに克服するかが重要だと考えました。この障害を取り除けば、もっとラクに西山公園が利用でき、公園と道の駅が有機的に結びつく。その結果、長く使ってもらえる“しぶとい建築”になると確信しました」。そこで浮かんだのがブリッジでつなぐ道の駅の姿だった。

7社の請負業者をとりまとめ一本化に尽力


ここでまで順調に思えた道の駅事業だが、基本設計以降、これまで経験のないプロセスを辿ることになる。それは、建築、機械・電気設備、土木造園、ブリッジなどがすべて分離発注で、請負業者が7社にも及んでしまったことだ。このままではうまくまとまるはずがない。この複雑なスキームを一元化し、当初の計画理念やデザインを実現するために総合的な監修者が必要になる。引き続きその役割を担ったのが内村先生だ。
「設計も工事もバラバラ。それらを一元化しないといけないわけです。本当に骨が折れました」。意見をまとめ、指示を一本化するために彼が実施したのが月1回の総合会議。内村先生が座長を務め、意見調整し、スムーズに工事を進めることに成功する。

福井初!県市融合の道の駅の誕生


多くの道の駅の場合、トイレと休憩コーナーは県が、食事やお土産コーナーは市が整備するため、結果的に別棟になり、完成後に床や廊下などでつなぐパターンがほとんどだという。県と市の両方からの財源で建設され、別発注で設計・工事が行われるためだ。「利用者は使いづらくてしょうがいない。特にここはスペースが限られているので、休憩と食事コーナーを一体化する必要がある。何とかしなくてはと思いました」。
完成した建物は、トイレや休憩スペース、お土産コーナーも連続し一体化した道の駅のようにしか見えないのだが、「一棟に見えるでしょ。実は構造的には別棟なんですよ。県や市と調整しながらなんとか距離をなくすように了解を引き出し、素人目にわからないようにつなぎ合わせたのです。わからないでしょ」とニヤリと笑みを浮かべる。県と市による道の駅で一体化した建物を実現させたのは、実に画期的なことなのだ。

細部にもとことんこだわりが

道の駅「西山公園」はブリッジに注目が集まりがちだが、西山公園のすばらしい景観に対し、可能な限り、建物の外観が調和する様配慮されている。また、公園がこれまでより広がったかのように実感できるのは、できる限り緑の面積を確保、敷地6,000㎡の1/3が緑地であるため。街中にいながら、自然を満喫できるのだ。


これまでの道の駅の問題を解消

「ここの主役は建物ではありません。自然をじゃますることなく公園とつなぐ道の駅であること。それが叶って本当によかった。西山公園は何と言ってもつつじが命。そこを見てもらわないと意味がない。お天気に関わらずガラス越しにつつじや新緑を楽しみながらお茶できるのって素敵でしょ。今、大勢の人が集まってくれて、喜んでもらえているのが何よりの歓びです」。
福井工業大学に来て10年の区切りの年に出会った道の駅のプロジェクト。「これまで培ってきたアイデアや技術がカタチにできた。大きな一つの節目となりました。こうした経験は学生たちにもしっかり伝えていきたい」。大きなプロジェクトをやり遂げ、充足感に満ち溢れる姿がそこにあった。



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