FILE No.54

ふくいPHOENIXプロジェクト

電気電子工学科

中城 智之 教授

日本が宇宙開発を始めて60年余り。人工衛星は宇宙研究から商用利用を目的としたものにシフトしており、今後ますます衛星ビジネスが加速すると予想される。福井県では県内のものづくり企業の技術力を結集した県民衛星の打ち上げを目指しており、福井工大も「宇宙」をテーマに地域活性化を目指す「ふくいPHOENIXプロジェクト」を発足。プロジェクトの中核である衛星の利用研究を担当するのが中城智之教授だ。

「宇宙」を福井の新しい地域資源に


2016年11月、福井工業大学が取り組む「ふくいPHOENIXプロジェクト」が文部科学省の私立大学研究ブランディング事業に採択された。宇宙事業推進のために地域と協働する取り組みが独自色のある研究と認められ、国から支援を受けることが決まったのだ。
福井県では県内企業を中心とした福井県民衛星技術研究組合が設立され、2019年に超小型衛星の打ち上げを計画。駅前に宇宙をテーマとする大型施設・セーレンプラネットが誕生したこともあり、福井の新たな魅力として「宇宙」への関心が高まっている。
「何より福井県には本学が2000年に設置した北陸最大のパラボラアンテナがあります。衛星利用にはデータを受信する地上局が不可欠。大きなアンテナほど高速のデータ通信が可能で衛星データ利用の実用化に有利ですから、福井には大きなアドバンテージがあります」
福井工大でも宇宙で地域活性ができないかと考えた中城先生は、福井駅前の恐竜像のエリアにパラボラアンテナを置いて管制基地を作り、セーレンプラネットや福井市自然史博物館の天文台と連携することを思いつく。その提案は実現には至らなかったものの、宇宙と福井を近づけ、街を元気にするという想いは、プロジェクト発足の原動力になった。

宇宙からのデータで地域を豊かに

「ふくいPHOENIXプロジェクト」には「衛星利用研究の推進」「宇宙をテーマにした地域のイメージアップ」「宇宙関連産業の育成」という3つの研究軸がある。中城先生が主に取り組むのは、地球観測データを活用した精密農業と観光ブランディングだ。
人工衛星と農業?と思うかもしれないが、福井工大が製作する衛星は20×30×10㎤と超小型ながら、搭載するカメラの解像度は1ピクセルが20×20㎠という精密さ。NASAが打ち上げた地球観測衛星「ランドサット」とほぼ同じ解像度だ。
「これは田んぼのイネの葉の色など、生育状況を分析することが可能なレベル。衛星からのデータをもとに肥料や水量を管理し、イネの高品質化や生産管理の効率化につなげることができるんです」
衛星による地球観測は森林や海洋、災害の情報収集、街で起きる事象や変化の把握など、幅広い分野に利用できる。その特性を農業に応用すれば、農家のサポートや福井のブランド農産品の質の向上に貢献できるのだ。

地域の魅力を宇宙からの観測で再発見


また、観光ブランディングでは、私たちが最も身近に宇宙を体感できる「星空」をテーマに選んだ。自然豊かで空気が澄んでいる奥越は星空もきれいで、魅力ある地域資源になる。プロジェクトでは衛星データで夜空の暗さを計測し、星空の美しさの根拠を数値化することで、福井に「日本で最も美しい星空」という付加価値を見出そうとしている。
「数値できれいさが伝えられると県内各地の星空名所のマップが作れます。これまで知られていなかった名所を発見できるかもしれません。観光客が知りたい『どれだけきれいか』『どこに行くといいのか』『いつ行くといいのか』を具体的に発信することもできます。私たちの観測データが星空の保護を掲げる『国際ダークスカイ協会』のような世界的な団体に認められれば、星空による観光ブランディングの追い風になると思います」
 夜空の暗さという地上では全体像をつかみにくい魅力も宇宙からのデータと結合すれば、福井県の魅力として目に見える形で伝えることができる。それが星空の美しさを守る照明の設置を考え、他の地域資源とリンクした星空ツアーなどの地域ぐるみの活動へと発展していけば、“夜空で街おこし”の新しいモデルケース誕生も夢ではない。
「きれいな星空が人の心に刻むインパクトはすごく大きい。その感動が観光のモチベーションになり、地域の人の誇りとなり、収益を生み出し、美しい星空を維持していく形がつくれたらいいですね」

最先端の開発に挑む。トライアルこそ大学の存在意義

今や人工衛星はNASAのような高度な宇宙技術がなくても製作が可能だ。ここ10年ほどで技術開発が進み、部品がモジュール化されたことで参入のハードルが下がっており、将来的にはスマホサイズの人工衛星が登場するかもしれないのだ。
人工衛星1基の費用を10分の1に抑えられたら、トライできる回数が10倍になる。チャレンジとフィードバックの機会が増えれば、衛星を製造・活用できる産業にとって大きな発展につながるだろう。中城先生も人工衛星の製作に関しては、「より小さな、低コストの衛星で、どこまでより高度な実用に迫れるかを追求したい。高速のデータ通信を可能とする10mパラボラアンテナをもつ福井工大だからこそチャレンジできるテーマだ。」と語り、県民衛星プロジェクトの技術チームと情報交換を行いながら福井工大モデルの衛星づくりに力を注ぐ。
「私たちは電気電子工学科のノウハウを応用して、衛星ができるだけ長く福井を観測できるよう、姿勢制御を行うプログラムを組み込もうとしています。小型になればなるほど姿勢を保つのが難しくなるので、これは先端分野の技術だと言えますね」
福井工大ではまずは、宇宙で実績のあるモジュールの組み合わせを検討し、自分たちの研究に必要なプログラムを加えていくという。衛星の製作はこれからだが、打ち上げ後は福井の観測を行いながら、自分たちの設計がどこまで機能しているかも地上局でモニタリングし、より高度な実用化の可能性を探っていく予定だ。


地域を知るほど、宇宙が近くなる。


現在このプロジェクトには電気電子工学科の学生が約15名参加しており、衛星製作・夜空の暗さ観測・イネの観測・地上局の4つのグループで研究を進めている。自主的に農業試験場に足を運んだり、設計技術のリサーチをするメンバーの姿に、「プロジェクトを通じて自分の身の回りのことと宇宙がリンクし、ずいぶん宇宙を身近に感じられるようになってきているようです」と目を細める。
宇宙から届く観測データを有効に活用するポイントは、「地域を知ること」だと中城先生。どんなに有益なデータも活用方法のピントがずれてしまっては活かせない。そのためには地域にどんな問題があり、どんな状況に置かれているのかを調べることが重要なのだ。
「地域を知り、何に役立てるのかを突き詰めるほど全体がクリアに見え、データの利用価値は高くなります。宇宙の視点を持ちつつ、地域を深く理解していくことが、福井と宇宙を近づける鍵なんですよ」


プロジェクト期間は5年を予定しており、完了までにデータ観測の事例をたくさん収集し、モデルケースを作りたいと意気込む。「このプロジェクトが福井に『宇宙』という特徴を作り、超小型衛星の可能性を発信するマイルストーンになれば」と語り、学生たちにも未来のエンジニアとしての成長を期待している。
「このプロジェクトは賛同してくださる方が多く、恵まれた環境で研究ができて、とても励まされています。学生には衛星の製作やデータの活用はもちろん、これからの技術者に求められるプロジェクトの本質的な目的をとらえた考え方、全体を見通しまとめる力も学んでほしいと思います」
宇宙で福井を元気にする『ふくいPHOENIXプロジェクト』。今後の展開に期待したい。


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