FILE No.046

留学生の資格取得

機械工学科4年

グエン ヒュ トアン

技術が発達し、自動で材料の加工ができるようになった今でも、人にしかできない仕事が数多くある。旋盤と呼ばれる機械加工技術もその一つ。ベトナムからの留学生で機械工学科4年のグエン ヒュ トアンさんは昨年、国家資格である機械加工技能士の普通旋盤2級に合格した。福井県で国家資格を取得した初めての留学生だ。

説明書を理解したくて日本語の勉強をスタート


もともと機械エンジニア志望。ベトナムでは大学に進学し、機械工学を専攻。そこで目にしたのが日本製の工作機械だった。授業で使用する旋盤や測定機などの機械はすべて日本製だったという。「使い方や何ができるのかを知りたくて説明書を見ましたが、すべて日本語。先生に聞いてもわからない。でもあきらめきれなくて」と日本語の勉強を始めるようになった。
辞書や参考書を頼りに独学で始めた日本語。もっと理解したいと日本語学校に通うようになった。「勉強を続けるうちにますます好きになった」。日本語に夢中になると同時に、日本の大学進学を考えるようになる。
「将来の夢は機械エンジニアになること。日本製の製品は身近にあり、どれも高性能。日本は機械技術が世界一。勉強するなら日本に行きたい」。

大学進学に備え日本語学校で勉強


来日後は大阪に滞在。大学進学に備え、日本語学校に2年間、大学進学のための専門学校に1年通い、日本語の上達に磨きをかけた。
ようやく大学進学の準備も整い、専門学校で行われた進学説明会に参加した先で「大阪に3年間住んだので、他の土地に暮らして日本文化をより深く理解したかった」とグエンさんが選んだのが福井工業大学だった。「留学生へのサポートがしっかりしているし、就職率がいいのが決め手です。専門学校の先生も福井は住みやすい、田舎だけど勉強するには良い環境だと太鼓判を押してくれました。でも本当のことを言うと、雪が見たかったことも決め手の一つなんです。ベトナムで雪を見たことはありませんでした。大阪でも少し見ましたが、雪が積もっているのを見たかったんです」と笑顔をのぞかせる。

授業が理解できなかった辛い一年

希望を胸に入学するものの、授業がスタートすると同時に日本語の大きな壁にぶつかった。
専門用語が飛び交う授業がほとんど理解できないのだ。教科書の漢字が読めない。意味の分からない単語だらけ。日常会話に大きな問題はなかったものの「日本語がまだまだできていなかった」と思い知らされる。
しかし、それで落ち込むわけにはいかない。「もっと、もっと勉強しないといけない」。授業の合間は時間を惜しんで日本語を勉強。日本の友達から教えてもらうことも多かったという。特に難しかったのが漢字。「論文の試験の時は漢字が書けなくてほとんどひらがなでした」と振り返る。
苦しい1年間だったが、猛勉強と周囲の支えで進級。2年生の後期頃には問題なく授業についていけるほどになっていた。4年生になった現在、自由に日本語を操るグエンさんだが、今でも日本語、特に漢字の勉強は毎日欠かさない。努力家だ。

資格取得のために猛勉強


大学では技術や知識習得の証となる資格を取得したいと考えていた。入学後、興味を持ったのが旋盤だった。
旋盤は、機械加工で最もよく使用される工作機械の一つ。加工する材料を高速で回転させながら「バイト」と呼ばれる刃物を当て、リンゴの皮を剥くようにして目的とする形状にしていく。バイトの種類や動かす方向を変えるだけで、材料を様々な形に加工することができる。「ベトナムの大学でも使ったことがありましたが、すごく面白い。自分の手で精密な部品を作れるのがいいですね」。


旋盤の国家資格があることを知り、グエンさんの猛勉強が始まった。試験は筆記と実技。学科試験対策には過去問が大切と聞き、それを中心に勉強。専門用語が多く、まず辞書や参考書を手に意味を理解することからスタートしなければならなかった。
学科以上に大変だったのが実技。2時間半から3時間半という制限時間内に課題の部品を完成させなければならない。「3級では0.3mm、2級は0.01mmという誤差の世界。すごく神経を使います」。精度の高さが求められる実技にパスするには数をこなすこと。時間を見つけては旋盤機の前に立ち、ひたすら部品づくりの没頭。一日3、4時間、半年にわたりコツコツと技術習得に励んだ。
そして2年生の時には普通旋盤3級、3年生の時には普通旋盤2級に合格した。「2級は難易度が高かったので合格した時は本当にうれしかった」。

機械エンジニアとして日本で働きたい


学費や生活費はすべてアルバイトで賄ってきたグエンさん。授業、資格の勉強、アルバイトと多忙な大学生活を送っている。「自分の興味のある資格のためだったので勉強は楽しかったですよ。いい友達や先生に恵まれて毎日充実しています」。
日本に住んで約6年。「日本人は優しいし、自然も豊か。ますます日本が好きになりました。だからこれからも日本に住み続けたい」と現在、日本の企業に就職するため就職活動の真っ最中。「大学で学んだことを活かした仕事に就きたい。機械エンジニアとして活躍できたらうれしい」と夢に向かって走り続けている。
最後に、雪のある生活の感想を聞いてみると「最初は喜んでいましたが、住んでみると意外と大変。バイトに行くのに苦労しました」と笑顔で話してくれた。


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