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「地方創生ハッカソン」で優勝!IoTを社会に役立てたい

環境情報学部 経営情報学科 情報システムコース 3年

中嶋 悠太

経営情報学科情報システムコースでコンピュータのプログラミングを学ぶ中嶋さん。2021年11月に開催された、地域課題解決のための提案募集イベント「地方創生ハッカソン in 福井」(福井県 主催)に参加し、チームメンバーとともに優勝を勝ち取った。当日の取り組みや、IoTシステムの開発など今後の目標についてうかがった。

プログラミングの技術を向上させながらIoTを研究


コンピュータプログラミングなど情報関係の勉強を志した中嶋さんは、自宅から通学できる地元の大学で学びたいと、環境情報学部経営情報学科に入学。情報システムコースを選択し、コンピュータやネットワークシステムなどの知識と技術の習得に励んでいる。プログラミングの基礎を学ぶ実習を1年生で受講し、2年生からは、より高度なプログラミングに挑戦。3年生の現在は、「FUT実践学演習」で独自のプログラムを一から作成し、システムを構築する課題に取り組んでいる。

「FUT実践学演習」は学生自身が課題テーマを選択し、グループで意見やアイデアを出し合いながら問題点を発見し、解決していく科目である。「この演習で、以前から関心をもっていたIoTの勉強を深めることができ、福井工業大学に入ってよかったと感じています」と中嶋さん。IoTは“モノのインターネット(Internet of Things)”の略称で、センサーなどの装置や電子機器、家電製品、建造物、車などをインターネットに接続し、ネットワークを通じて情報交換する仕組み。さまざまなジャンルでの活用が検討されており、中嶋さんは、両親が携わっている農業での活用を研究している。「ラズベリーパイという小型パソコンを用いたIoTシステムの開発を演習担当の先生に教わっています。ラズベリーパイはさまざまなセンサーを接続でき、それらを組み合わせた農業用のIoTシステムを開発したいと考えています」。

「地方創生ハッカソン」に参加し、チームで地域課題に取り組む

IoTの知識や技術を人のために役立てたいと考えるその中嶋さんの熱意に対し、学科の先生が勧めてくれたのが、昨年11月27・28日に開催された「地方創生ハッカソンin福井」への参加だった。ハッカソンとは、ハック(Hack)とマラソン(Marathon)を掛け合わせた造語で、参加者同士でチームを組み、与えられたテーマに対応するアプリケーションやサービスを開発し、競い合うイベントだ。参加者は学生だけでなく、本職のITエンジニアやプランナー、デザイナーなど幅広く、初めて顔を合わせた者同士が短期間でモノ作りを行うため、相互のコミュニケーションも重要になってくる。

当日は約30名の参加者が5チームに分かれて課題に挑戦。初心者枠で参加した中嶋さんだったが、チームにはITエンジニアが一人しかいなかったため、プログラミングを行うエンジニアとして活動することになった。「ハッカソンは、アプリケーションやサービスの提案をするだけでなく、実際にそれらを制作し動かさなくてはなりません。私のチームではアプリなどを制作することになりましたが、それにはエンジニアが一人では足りなかったのです」。主催者から提示された地域課題は「一乗谷朝倉氏遺跡における観光周遊性の向上」と「DXの推進による地域コミュニティの活性化」の2つ。中嶋さんのチームは後者を選択し、福井市殿下地区の「デジタル技術を活用した自治会業務の効率化」に取り組むことになった。


同地区では、人口減少と高齢化に伴い自治会業務に携わる人が少なくなっていることから、本業務や住民同士の連絡にDX(Digital Transformation)を活用したいと考えている。DXは、デジタル技術を活用し、生活や仕事のスタイルをより便利で効率的なものに変えていくことを意味し、納税者の申告や申請がインターネットを介してできるようになったのも一例である。今回の取り組みも住民の利便性を高めるDX化だが、現実には抵抗感や不安を持つ高齢者も多い。そこで中嶋さんたちが考えたのが「高齢者でも使えるようにDX化すること」だった。

テレビを活用した「知らぬ間にDX」で、優勝を勝ち取る


作業を進めるに当たり、まず住民からのヒアリングを実施し、以下の状況が把握できた。「現在、住民間の情報伝達や安否確認は有線放送や回覧板などで行っており、これをスマートフォンやタブレットを利用する形に変えればよいと思われるが、これらを使えない高齢者が多い。しかし一方で、回転寿司のタッチパネルは操作できる」。この話を受け中嶋さんたちは、高齢者が使い慣れている身近な電気機器で、インターネットに接続可能なテレビに着目し、テレビ操作がパソコン操作に変わる仕組みを考案した。「ネット配信される動画などをテレビで見られるようにできるファイヤースティックをテレビに差してインターネットに接続すると双方向情報共有サービスに切り替わり、外部と情報のやり取りができるようになります。例えば市役所から送られたイベント案内をテレビで見た住民は、リモコンを操作して参加の返事を送信する。テレビと同様の操作で知らぬ間にDXを活用しているわけです」。このために作成したアプリに「回転ずし風有線アプリ」と名前を付け、一方で導入と運用の費用も試算。従来の有線放送を継続する場合より少ない費用でDX化するビジネスモデルを作成した。発表に当たってメンバーで決めたキャッチコピーは「知らぬ間にDX」だ。

アプリを動かすためのプログラミングは、中嶋さんがリモコンを、エンジニアの方がテレビ画面を担当。「テレビの表示に対するアクションは、画面のボタンでもリモコンでもでき、住民の方にも『これなら使いやすい』と言っていただけました」。制作後は全員で発表のための資料作りと練習に集中した。「全日程を通して2日間しかないため、早く進めることも重要で、メンバーと協力し合って一生懸命作成しました」。


発表と審査、表彰は2日目の午後に行われ、中嶋さんのチームは優勝を獲得。「信じられなかったです。もっと本格的なシステムを作ったチームもあったので」と話す中嶋さんだが、「知らぬ間にDX」というわかりやすいキャッチコピー、テレビを利用した誰でも使えるシステム、初期投資が少ない点が評価された結果だった。

有意義だった参加者との交流。将来は農業用IoTの開発を

初めて参加した地方創生ハッカソンで、大学で身につけたプログラミングの知識や技術を生かすことができたという中嶋さん。「みんなでアイデアを出し合いモノ作りをする良い経験ができました。就職を目指している情報システム系の企業の方から、現場のお話を聞けたのもうれしかったですね」と語り、今後のステップアップにつながる2日間だったことを実感している。

中嶋さんが将来仕事と並行して続けるつもりなのが、農業用のIoTシステム開発だ。「両親が米作りをしていますが、兼業なので出勤日は田んぼの様子を見に行けません。それで手始めに、撮影した映像をラインで送るシステムを作りました。農業のIoT化は一様に高額なので、できるだけコストをかけないものをと思っています。米作りは水管理がたいへんで、経験に基づく勘に頼るところが大きいんです。それをIoT化することで、高齢者だけの農家でも、初心者の若者でも米作りができるようにしたいと思っています」。IoTを人の暮らしや仕事に役立てたいという中嶋さんの思いは、新たな社会課題の解決へと広がっていきそうだ。


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