福井工業大学 Fukui University of Technology

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熱中時間

FUTの人たちの最高の
時間をインタビュー
FUTの人たちはなぜ熱中しているのか。熱中するものだけが感じられる最高の時間とは何か、に密着する。

No.59
環境・食品科学科
笠井 利浩 教授
theme:五島列島赤島活性化プロジェクト

日本にはいまだ水道施設がなく、雨水を使った生活を送っているところがあることをご存じだろうか。長崎県の五島列島にある赤島は水道施設がないだけではなく、井戸など生活に利用できる水源がなく、雨水に頼った生活を営んでいる。しかし、近年問題になっている黄砂やPM2.5による大気汚染による水質悪化が懸念されている。そんな赤島で『五島列島赤島活性化プロジェクト』を立ち上げ、今年の夏から本格的な活動をスタートさせたのが、環境・食品科学科の笠井利浩教授だ。3カ年計画で始まった雨水を水源とした小規模給水システムとはどんなものなのか。そこに情熱を傾ける笠井先生の思いとは。

雨水を貯めるメリット


雨水活用による日常的な水資源の研究や活用方法についての研究に取り組んでいる笠井先生。「日本では昔から雨水を利用してきたにも関わらず、今は一般家庭で全くといっていいほど使われていません。私たちには、水道があるのにどうして雨水を使わなければいけないのか、という意識があります。しかし、近年の豪雨や渇水の問題を考えると、雨水活用による水資源についてもっと考えてみてもいいのではないでしょうか」と話す。
屋根に降った雨水を集めて貯水する雨水タンクを利用しトイレの水として利用する取り組みは、公民館などの公共施設や都市部のビルなどで導入されているところがあるが、私たち一般家庭での普及はほぼ皆無。しかし、雨水タンクは、トイレや水やりなどで利用する節水対策だけではなく、局地的な豪雨の際に雨水をストックすることで床下浸水などを防ぐ洪水対策、渇水時の水不足対策、そして万が一の災害時に緊急用の生活用水として利用できるなど、多くのメリットがあることがわかる。
「最近の気候変動を考えると福井でもいつ渇水や豪雨に見舞われても不思議はない状況。しかし、福井ではこれまで渇水等の問題に直面したことが少ないため、ため池などいざという時に水を大量に貯める仕組みができていません。もし気候が変化し、水不足に陥ったら、システムができていないためまともに影響を受けるでしょう。それは何も福井に限ったことではなく、どこにでも起こり得ることなのです」。

実はキレイな雨水

笠井先生は、これまでに雨水の水質や活用方法に関する様々な実験を行っている。例えば、洗濯での雨水活用の場合。雨水と水道水100mlに同じ量の洗剤を入れると、雨水の方が泡立ちが良く少量の洗剤で済むという。「雨水にはミネラル成分が含まれておらず蒸留水に近いからです。洗濯に関しては水道水よりも機能性が高いことがわかりますよね。洗剤の使用量が少なくなれば、洗剤に含まれる環境に悪影響を及ぼす界面活性剤も確実に少なくなり、環境にも良いということになる。他にも雨水で洗車すると水滴跡がつかないのでキレイに仕上がる。つまり、いろいろご利益があるというわけ。水やりや洗車だけではもったいない。洗濯やトイレなら雨水で十分だと思いませんか」。

汚れた初期雨水を取り除いてトイレ・洗濯に利用


しかし良い事ばかりではない。最初に降る雨は「初期雨水」といって、大気中の汚れを含みながら降るという問題がある。降り始めの2~3mの雨には黄砂やPM2.5、花粉等が含まれており非常に汚れているというのだ。そんな汚れた水で洗濯は避けたいもの。「問題なのは初期雨水。それ以降の雨は非常にきれいなんです」。そこで開発したのが初期雨水を自動でカットするシステム。福井市内には笠井先生が設計・施工を手掛けた雨水浄水システムを導入した家があり、雨水を利用した生活を送っているという。そこには2つの雨水タンクがあり、その間に初期雨水カットタンクを設置。屋根から流れてきた水をいったん初期雨量カットタンクで貯め、コンピュータ制御で最初の雨を捨てるなどの処理を行う。その後、比較的きれいな雨水を一方のタンクに溜めトイレに利用。さらにきれいになった雨水をもう一方のタンクに溜め洗濯に使用する。「これならきれいな水で洗濯できるので安心。トイレ、洗濯に関しては雨水で十分賄えます」と自信をのぞかせる。
「このようなシステムを一般家庭に普及したい。しかし実際には難しいでしょうね。まず、皆さんが雨水の利用価値の高さについて知らないという現実があります。その意識を変える必要があります。それなら、一度、一つの町や集落で前例を作ることが必要なのだと考えました」。そこで白羽の矢が立ったのが赤島だった。

水量が圧倒的に少ない!

赤島は、長崎県五島列島の福江島から船で25分のところにある面積約0.5㎢の小さな島。人口は近年数十人で推移。電気やインターネットサービスが受けられるにも関わらず、水道施設がない、日本国内では数少ない島。そのため各家庭では炊事や洗濯、お風呂など全生活用水を雨水に依存している。雨どいから小規模タンクに溜めて利用しているが、雨量に左右されるため、渇水の不安が常にあるという。しかも最近は大気汚染の影響による水質悪化も懸念されている。
笠井先生は昨年の9月、事前調査のため初めて島入り。そこで赤島の一般家庭の水量の少なさを目の当たりにしたという。「一番の問題は屋根の大きさ。家が小さいため、屋根も小さい。そうなると集められる雨の量がおのずと少なくなる。初期雨量を捨てている場合ではないのです」。島民の期待も大きく、雨水利用を広げようと声にしてきた立場として、このままあきらめるわけにはいかない。


新たな雨水の給水システムを構築

初来島以降、雨量や雨の水質などを調べてシステム構築の可能性を探り、島民の理解を得て立ち上がったのが、雨水を水源とした新たな給水システムを構築する『五島列島赤島活性化プロジェクト』だった。
計画では、まず雨を集めるため島内の中心部にポリカ波板製の集水面を設置。傾斜地を利用し波板を置いて雨水を流し、水質が悪い初期雨水をコンピュータ制御で除去。新たな大型貯留槽を整備し、ポンプで各家庭へ供給するというもの。雨量や貯留槽の残量などは遠隔管理できる仕組み。2019年完成を予定している。


学生と寝食を共にしながら炎天下で作業

今年の8月、いよいよプロジェクトが本格始動。笠井先生とデザイン学科の近藤晶先生、学生6名の計8名が赤島に集結。3週間に及ぶ作業が始まった。初年度の計画は、島の中心部の傾斜地に雨水を集める”雨畑”を作ること。これが大変な作業だった。
島の中心部は草木が生い茂る密林のようなところ。開墾から始めなければならならないのだが、島には車などの移動手段は皆無。あるのは手押しの一輪車だけ。徒歩で現場に向かい、チェンソーと草刈機だけで密林を開墾するしかなかった。港に届いた材料も一輪車で運搬。「購入した5tの砂も一輪車で運搬。8月の炎天下での作業は本当に大変でした。学生たちもよく頑張った」と苦笑いする。


全員が公民館で寝泊まりし、食事や入浴に使う水はもちろん雨水。「最初、飲み水や炊事用の水は持参した浄水器を使っていましたが、最終的には浄水しない雨水を使っていました。あとお風呂の水も、最初はタンクの水がなくなるといけないからと気を遣いながら使っていましたが、雨は降るし、常にタンクは一杯。最後はガンガン使っていました」となんら問題なく生活できた島の暮らし。「帰ってから、際限なく使用できる水のありがたさを痛感。一方で、シャワーの塩素の匂いが気になってしょうがなかった」と振り返る。ちなみに、島の雨水は検査の結果、大腸菌もおらず一般細菌も普通の水道水と同様の基準だったという。

作業に関しては全くの素人集団にも関わらず、初年度の作業は全てやり遂げた。「来年の夏には30tのタンクを公民館の横に設置し、コンピュータ式初期雨水除去装置を設置する予定。できるだけ多くの家庭に水を届けたい」とやる気は十分。


赤島に、日本各地に、東南アジアに雨水活用を


プロジェクトは、雨水を活用した給水システムを構築し、各家庭に安心して飲める水を届けることだけが目的ではない。「この島の問題点は、現在高齢の方しか住んでおらず、放っておくと無人島化すること。お店もないし自販機もない。畑も塩害で枯れてしまう。若者が住めないところに問題がある。無人島化させないためには、経済活動ができることが必要。例えば、宿泊施設やダイビングショップを作るとか。そのためにまず水が必要」。
しかし悪い事ばかりではない。笠井先生が注目しているのがアクセスの良さだ。「絶海の孤島なら誰も来ませんが、実は赤島にある無人島には東京のテレビ局が注目していて、撮影にも使われるほど。それは赤島までのアクセスがいいから。東京からは、飛行機で福岡経由で福江島に入り、そこから定期便に。朝東京を出発すれば午後3時には赤島に到着します。このアクセスの良さが重要なのです。手つかずの自然があって、東京からも来やすい。足りないのは水だけ。だから私は赤島に作るのです」。


雨水の供給システムを構築するだけでは何も変わらない。赤島に来てもらえるようにPRしたり、雨水生活をブランディング化して、島の活性化ストーリーをプロデュースするまでが役割だと考えている。今回、小型無人機ドローンでの島内の撮影を行い、活動内容や動画を紹介するサイト「しまあめラボ」も開設。豊かな自然や雨水での暮らしのPRにも力を入れている。「PRはデザイン学科の近藤先生に担当してもらい、撮影をお願いしました。実は、映像をまとめた作品を山形の国際ドキュメンタリー映画祭に出品しようと思っています。賞でもとったら雨水のPRになるでしょ。とにかく、島の人たちが少しだけでもいいので経済活動できるようになることが目標なんです。もっというと、日本全国に雨水利用を広げること。そして日本からアジアモンスーン型の雨水活用というシステムを東南アジアに広げることが私の最終目標なんです」。
笠井先生の夢はまだ歩み始めたばかり。3年後、そしてその先の赤島がどう変わっていくのか楽しみでしょうがない。そして雨水活用が当たり前になる日まで、情熱が冷めることはないだろう。



学年学科名等は、取材時のものです。

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