FILE No.28

卒業制作

デザイン学科4年

伊藤 奈美

デザイン学科の4年生がこれまで学んだことをカタチにする卒業制作。作品は、2月6日〜9日に福井市美術館で開催される「デザイン学科卒業制作展」で展示される。美術館での展示を前に、多忙な日々を送るデザイン学科4年の伊藤奈美さんは、「卒業制作は、私がこの4年間福井工業大学で学んできたことの集大成。ここまでできるようになったという成長の証を先生や両親、お世話になった方に見ていただきたい!」と力強く語る。

都市と建築の関係性、が卒業制作のテーマ


卒業制作に取り組み始めたのは後期授業が始まる9月。作品の“テーマ”、これがなかなか決まらなかった。「あんなこともやりたい、こんなこともやりたい」と欲が出てきて、そのうちに何がやりたいのかわからなくなってしまうほど。絞り込めずに思い悩む日々が続く。
その頃、ある設計コンペに参加する。テーマは“都市環境を引き込む建築”。そこで「自分がやりたかったのは、その時のテーマである“都市環境を引き込む建築”なのかもしれないって気づいたのです。どんな建築が街にいい影響を与えるのだろうかって」。指導担当の川島教授にも相談しアドバイスをもらいながら考えをまとめ、ようやくたどり着いたテーマが“都市と建築の関係性”だった。

模型制作に奮闘


アイデアがまとまり、ようやく制作に取りかかることになった。
「線路は街と街をつないでいますが、その線路を挟んだ両側の街は分断されています。線路の上に開かれた建築をつくって、分断された両側の街をつないでいくのです」。
敷地は出身地の新潟に決め、まずは敷地調査を行って、いよいよ制作段階に突入。模型製作は、まず1/500のスタディ模型と呼ばれる模型で建築物の形を作り、そこから図面を起こして1/200に作り直す、という作業の繰り返し。修正が必要なら、スタディ模型から何度でも作り直す。最初はケント紙で模型を作ってみたり、竹串を柱に見立ててみたり、試行錯誤していたこともあったという。パーツだけでなく全体のバランスや収まりも気を配る。全体を繋げた時の街の美しさも必要なのだ。気が遠くなるような細かい作業が続く。
こうして制作期間が1ヶ月を過ぎた2013年12月、それにまでに出来上がっている作品の提出とプレゼン、質疑応答による発表会が行われ、高い評価を受けて合格した。「建物を構成する要素が太すぎると指摘を受けたので修正しないといけませんね。あとはもう一つ模型を追加で制作し、全体のブラッシュアップしたい。なんとか目途はつきました」と満足げな様子で、畳二枚分ほどに広がる作品を前にホッと一息つく。

指示を出すことの難しさを痛感


今回、模型制作では後輩に手伝いを頼んだ。やってほしいことを伝えるだけでいいと考えていた伊藤さん。しかし手伝ってくれる後輩は、完成イメージがまったくわからない真っ白な状態。指示も当初は的確ではなかったようで、始まったばかりの頃は何度も失敗しそうになり、軽いけんかになることもあったという。「後輩は授業やバイトの合間をぬって手伝ってくれているわけですから、これではだめだ」と反省。以来、後輩のスケジュールを聞き取り、だれにどこを任せるなどの分担を細かく割り振るなど綿密な計画を練り、的確な指示を出すことを心がけるようにした。後輩が帰ってから、それまでの進捗状況を確認し、翌日の予定を立て、今後のペース配分なども含め、翌日のお昼にLINEで細かい指示を送るようにしたのだ。すると制作もスムーズにはかどり、後輩との関係もうまくいくようになる。「作品を作るというよりも、どうやって人をまとめ、指示していくべきかという点ですごく勉強になりました。卒業制作での一番の収穫かもしれませんね」と笑う。

関わったプロジェクトで大きく変化


高校生の頃から建築とデザインに興味を持っていた伊藤さんが、新潟県出身でありながら福井工業大学を選んだのは、建築とデザインの学科があったから。しかし大学に入学し授業が始まると、早速壁にぶつかってしまう。「デザイン学科なのでデッサンや粘土制作が多くて。私がやりたかったのは住環境デザインだったので、最初はとまどいがありました」。しかし、負けん気の強い性格。「こうじゃなかったと文句を言っているだけでは何も変わらない。そのために大学に来た訳じゃない。やれることはとことんやらなきゃ」と自分を奮い立たせる。そこで積極的に取り組んだのが、学生が主体的に参加し、体験を通じて様々な知識やスキルを身につけることができる「学科プロジェクト」だ。彼女はこの4年間で『えちぜん鉄道七夕アートプロジェクト』、『上味見活性化プロジェクト』、『学生マンションリノベーションプロジェクト』『木匠塾』の4つのプロジェクトに参加した。「七夕アートは1年生と4年生の2回参加。制作する側と指導する側の両方を体験。後輩に教えていると、4年間自分が勉強してきたことがわかるんですね。振り返ってみると、プロジェクトに参加することでいろんなことが身につき、成長していることを実感、卒業制作にも大いに役立ちました」。

積極的な自己PRで就職活動を突破


大学での学びや経験を通して、より建築物への情熱を深めた伊藤さん。設計部門への就職は絶対に譲れないものとなっていた。そこで就職活動ではゼネコンやハウスメーカーを中心にエントリ-。設計部門での募集を中止している企業にも「ぜひ設計をやりたい」と積極的に売り込むほど。設計で採用されない時は、内定を辞退することもあった。そんな中で内定が決まったのが、全国展開している一部上場のゼネコン会社への就職だ。しかもその会社にとって初の女性技術職での採用だという。
「希望の設計職で就職できたのも、学生生活が充実できたのも、プロジェクトに参加したことが大きかったと思います。課題だけこなしていたら、何も成長できていなかったかもしれません。異なる学年、学科の学生と関わりが持て、いろいろな刺激を受けますし、企業と関わりが持てるので、実際どんな勉強が社会で役立つのか、どんな人材を求めているのかも聞くことができましたからね。実りの多い経験でした」。
ただひたすら夢中で学んできた4年間。自信とやる気を身につけて大きく成長を遂げた今、新たな人生の第一歩を力強く踏み出そうとしている。


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