FILE No.117
「工大サミット連携PBL」に挑戦し、成長を実感
環境情報学部デザイン学科 都市デザインコース 3年
谷島 諒
「第5回工大サミット」の一環として2022年8・9月に広島県・宮島で行われた「工大サミット連携PBL」に参加した谷島さん。「町家の保存と活用」をテーマにチームで取り組みフィールドワークや提案資料づくりなどで活躍。その成果とチームワークは高い評価を獲得した。PBL4日間の体験と感想をうかがった。
デザイン学科で切磋琢磨し、幅広い力を養成
「建築の道に興味があり、より広くいろいろなことが学べておもしろそうだ」と福井工業大学環境情報学部デザイン学科に進学し、都市デザインコースを選択した谷島さん。「同期生同士が切磋琢磨しながら高いモチベーションを持って楽しく学んでいます」と約3年間を振り返る。中でも、1年後期から始まった建築計画に関する実習は、徐々に難易度の高い設計に取り組むことで建築への興味と意欲が高まり、「正解がない設計は力を注いだ分の成果が出るので、自身の成長を実感できます」と話している。
また、「デザイン学科には、都市・プロダクト・映像・Webなど6つの履修モデルがあり、建築以外のことを学べます。より広い知識や技術を身につけられるのが1番の魅力」とも。
工大サミット連携PBLで「町家の保存と活用」にチャレンジ
意欲的に学ぶ谷島さんが、2022年秋にチャレンジしたのが「第5回工大サミット連携PBL(問題解決学習)」だ。「工大サミット」は、全国の理工系大学9校が、グローバルな環境で活躍できる人材育成を共通課題に、情報共有と連携・協力を図り、理工系高等教育の活性化を目指している。毎年(2020年を除く)、各大学が持ち回りで開催校となり、2022年は12月3日に愛知工業大学で開かれた。福井工業大学からは、掛下知行学長、池田岳史副学長、大学院工学研究科応用理工学専攻の大門諒大さんがプレゼンテーションやパネルディスカッションの発表者として登壇。谷島さんは、8・9月に行われた「工大サミット連携PBL」の成果発表チームの一員として参加した。
今回のPBLは、広島工業大学が主催し、「宮島 町家の保存と活用」をテーマに開催された。宮島は広島県廿日市市にあり、厳島神社を中心に多くの観光客が訪れる景勝地である。厳島神社へ続く表参道通りと並行して東側に伸びる町家通りには、江戸期から昭和初期にかけて建造された「宮島町家」が立ち並んでいるが、中には空き家や空き地も点在する。このような現状と課題を調査・検討し、解決策を提案するのが今回の目標であった。
チームを引っ張り、フィールドワークに奮闘
8月19・20日に宮島で行われた「課題発見編」には9大学約60名の1年生〜4年生の学生が参加した。まず、全員が広島工業大学の先生から宮島町家の特徴や構造などの説明を聴講。宮島門前町が2021年に重伝建(重要伝統的建造物群保存地区)に選定されたことなどを学習し、その後8チームに分かれ、調査のポイントなどを話し合った。谷島さんは第8班で他大学の1~4年生7人とともに活動することになり、初対面の人たちとのフィールドワークに緊張しながらも、中心となって話し合いや作業を進める役割を担っていく。
初日の早い時間に宮島に入りまちを見て回った谷島さんは、厳島神社へ向かう表参道通りが観光客でにぎわう一方、住居エリアの町家通りを歩く人は少なく、劣化した建物もあることに気づく。そこで、第8班の調査は「町家通りは宮島の人々の暮らしが見える場所」であることに着目し、通りに面した建物全ての用途をマップに書き込むことにした。「100軒以上ある建物が住宅なのか店舗なのか、あるいは空き家なのかを全員でマッピングしていきました」。さらに2回目の調査では、「家を貸せるかどうか」を住民に、「町家に住みたいかどうか」を観光客に対して質問し、町家の将来に必要な要素を探っていった。
「空き家活用」の提案が評価され、発表チームに選出
住宅や店舗が大部分を占める町家通りで目に付いたのは空き家だった。住民への聞き取り調査からも、高齢化に伴い空き家が増加していることがうかがえたという。「若い人が島を離れて高齢化が進み、空き家ができる。それが管理されないまま、まちの景観を壊していると感じました」。2日目はチームごとに、調査結果から宮島町家の課題を明確にし解決策を検討。谷島さんたちは「空き家の活用法を考える」をテーマに設定した。「空き家は景観を壊す原因になり、倒壊などの危険もある。そこで1軒の空き家をリノベーションし、まちの持続的な循環につなげていくというビジョンを立てました」。その後、9月開催の「解決提案編」までの間はLINEで具体的な提案内容などを相談し合った。
谷島さんたちが練り上げた提案のタイトルは「継ぐ町家」。コンセプトは「学生がつなぐ地域の拠点」である。町家通りを継承するには生活する人を増やすことが必要という観点から、学生と地域住民がまちづくりについて考える拠点を創出。宿泊機能を備えて町家に住む魅力を学生に伝え、卒業後、町家通りや宮島に関わる人材を育てることを目指している。「交流から始まり、町家の改修や保全、継承につながるサイクルを考えました」と谷島さん。宮島町家は、道路側から奥へ向かって、ミセ(パブリック空間)、オウエ(信仰の空間)、中の間(居間のようなプライベート空間)、座敷という造りのため、これを、交流の場、作業やミーティングの場、憩いの場に改修する案を考え、平面図とパースを制作することにした。
「解決提案編」では提案資料の制作に注力。谷島さんは平面図を描くとともに3Dソフトで内観・外観のパースを作成し、学生の過ごし方がイメージできるようにした。その後各チームが発表し、審査の結果、第8班がサミット当日の発表チームに決定。評価されたポイントについて谷島さんは、「コンセプトから提案まで一貫性があり、パースで見せるなど完成度が高かったからではないかと思います。また、全員が一丸となって一生懸命取り組んでいる姿にも好感をもっていただけた気がします」と語っている。
コミュニケーション力を高め、建築で人々の願いを叶えたい
「工大サミット連携PBL」には、学内では得られない経験や刺激があったと振り返る谷島さん。「初対面の人とのコミュニケーションや意見をまとめる難しさにも直面しましたが、リーダーシップを取れたことは僕自身の自信になっています。他大学の人との交流から新しい人間関係も生まれました。将来社会に出る上でのよい経験になるので、後輩にも参加を勧めたいと思います」と話している。
卒業後は、アトリエ系の設計事務所への就職を希望。インターンシップでは、設計はもちろん施工現場も見学している。「就職先を決めることが目下の目標ですが、将来は、住む人や、施設を利用する人、働く人が心地よいと感じる建物を設計したい。そのためには、施主さんの潜在的な願望を引き出すことが大事なので、コミュニケーション力をさらに磨いていきたいと思っています」。
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