FILE No.119

地域や人々の暮らしを豊かにするデザインを

環境情報学部デザイン学科メディアデザインコース 4年

山口 朝加

高校で学んだデザインをさらに深く勉強したいと、環境情報学部デザイン学科に進学した山口さん。グラフィックデザインや映像制作などを学び、デザインの力を実感している。2022年夏には、友達とともに鯖江市のコミュニティバスの外装デザインに挑戦し、山口さんのデザイン案が採用された。その体験談や今後の抱負をうかがった。

楽しみながらデザインの知識や技術を高めたい

子どもの頃から絵を描くのが好きだった山口さんは、中学生のときにデザインに興味を持ち、高校はデザイン関係の学科に進学。さらに、「地元の大学で、デザインをより深く理解し、技術を高めたい」と福井工業大学環境情報学部デザイン学科に進学した。

選択したメディアデザインコースでは、グラフィックやWebデザイン、映像制作など、さまざまな課題に取り組みながら学んでいく。「ポスターやチラシ制作といったグラフィックデザインが1番楽しい」と感じていた山口さんだが、最近、映像制作を行う企業のインターンシップへ参加し、映像作りにも興味が湧いているという。

デザイン学科の授業では、テーマに沿って思い思いにデザインを考える課題が出されるが、同学科には自由に使用できるパソコンが多数設置されており、「課題制作に集中したいとき、いつでも使えるのは本当にありがたいです」と山口さん。また、制作過程で生まれる疑問や迷いを、先生や学科の友達に気軽に相談できる環境も、学ぶ楽しさや意欲の向上につながっている。

一から考え、準備、制作する経験を通して成長する


山口さんが、「大学ならではの学び方である」と同時に、「自身にさまざまな力をつけてくれた」と実感しているのが、企画から取材、材料調達、デザイン、製作までを一人で進める課題である。その中で最も苦労したのが、店のリブランディングをテーマにしたときだった。シンプルな造りが魅力のパンの店に、親しみがわくような雰囲気をプラスしようと、チラシやPOP、プライスカードを可愛らしくデザイン。店主への取材後、短期間で各アイテムを5種類デザインし、印刷やカッティングは手作業で行った。紙などの材料を購入するためにアルバイトにも励んだ山口さん。「自分でお金をかけて作品づくりをするのは高校ではなかったこと。ものすごく新鮮に感じました。自分が働いて得たお金で材料を用意したので、より慎重に、しっかり考えながら取り組むことができたと思います」。
課題作品を仕上げるに当たっては、途中経過を先生や学科の友達に説明し、そのアドバイスを参考に手直しを加える。完成後に発表し、「良くなったね」「頑張ったね」などの言葉をもらえたときの喜びと達成感は格別だ。「デザインは正解がないので、考えるのはとてもたいへんですけど、特に『これは役に立つね』と言っていただくと、とてもやりがいを感じます」。

コミュニティバスのデザインに挑戦!思いをカタチに

2022年夏、一つの地域連携企画がデザイン学科の学生に周知された。それは“鯖江市のコミュニティバス「つつじバス」のデザインを考える”という内容で、同市が、福井工業大学の「まちづくりデザインセンター」に依頼したものだ。本センターは、「まちづくりとデザインで人を育み新たな価値を創造する」を目的に掲げ、デザインのみならず、建築、土木、環境、経営、情報といった文理横断による新たな視点で、地域の未来構想に貢献することを目指して同年4月に設立された。

デザイン学科でグラフィックデザインや映像制作などを指導する近藤晶准教授の呼びかけに応じ、山口さんをはじめ当時3年生の4人が参加。鯖江市の要望は、市中心部と河和田地区を結ぶ「つつじバス・河和田線」の新車両導入に伴い、外装デザインをリニューアルしたいというもの。「うるしの里」と呼ばれる河和田地区は越前漆器の産地であり、従来のバスは、漆器の黒色と赤色をメインにしたデザインだった。この印象を保ちつつ、「新しいデザイン案」「従来のデザインを多少変更した案」「従来のデザインの模様の位置のみを変えた案」3案の提出が依頼された。

山口さんたちは「うるしの里会館」を訪れ、漆塗りの様子などを見学してイメージを膨らませた。その後、全員が3区分全てのデザイン案を作成し、それぞれの案を、近藤准教授とメンバーで検討。区分ごとに最も良い案を制作した者が担当者になり、デザイン案をブラッシュアップして当初案として鯖江市に提出した。「新しいデザイン案」の区分で選ばれたのが山口さんの案だ。提出後、市から中間発表として要望が出され、山口さんの案への要望で最も大きかったのは地色の変更だった。「これまでと異なる新しいイメージで青色をベースにしたデザインだったのですが、赤色ベースに、とのご要望で、一から練り直しました」。

再提出した案は、車体を赤色のお椀と蓋に見立て、側面に河和田地区を流れる川とつつじの花をモチーフにした模様をあしらったデザイン。これが採用され、塗装等の作業と3月29日の完成披露会を経て、新車両として4月1日から運行されている。完成したバスを見て、「本当に走るんだ」と実感が湧いたという山口さん。「今回は、本格的な依頼によるデザインを初めて体験し、要望に応えながらデザインを練り上げていく大変さを体験しました。大きくて遠くからでも目に入るバスだから、イラストが小さすぎると何が描かれているかわかりにくくなってしまうことに気づくなど、客観的に見る力が付いたと思います。これからも、このように公共の場で使われるものや、たくさんの人の役に立つもののデザインにチャレンジしてみたい」と意欲的だ。


持続可能な社会や人々の暮らしを視点にする

3年次の後期に近藤准教授の研究室に入り、4年生となった今年の課題は就職活動と卒業制作だ。現在は、デザイン部門がある企業への就職を念頭にインターンに参加している。「人の役に立つデザインをしていきたい」と話す山口さん。卒業制作は、持続可能な社会や環境を視点にしたテーマを模索しているところだ。「農家の人たちが余った野菜を捨てざるを得ない状況がある中で、たまたまSNSで、フルーツを押し花のようにしてアクセサリーなどをつくる『押しフルーツ』を目にしました。食べる以外に、フルーツを活用して楽しめる方法があるんです。これを参考に、メイン作品と、それに付随する、例えばパッケージなども作りたいと考えています」。これから具体的な案を練るという山口さん。コミュニティバスのデザインのように、地域の人々のくらしを楽しく豊かにすることやまちづくりにも関心を寄せている。


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