FILE No.9
キャリアカウンセラー
キャリアセンター
渡邉 嘉子
学生を取り巻く雇用環境は大きく変化し、毎年厳しい状況が続いている。そんな中、昨年4月、福井工業大学に入学から卒業・修了まで一貫したキャリア形成支援と就職支援を行うキャリアセンターが開設された。ここで就職支援に情熱を注いでいるのが、キャリアカウンセラーの渡邉嘉子さんだ。積極的に学生と話すことで彼らの長所を引き出し、希望の仕事に就けるよう常にベストを尽くしている。何事にも動じず、いかなる時も笑顔で支えてくれる彼女は、学生からの信頼も厚い。
「個々に合った立ち位置に立つ」がモットー
渡邉さんは、国家資格の『キャリア・コンサルタルティング技能士』をはじめ、『CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)』、『産業カウンセラー』の資格を持つキャリアカウンセリングのスペシャリスト。教員・スタッフとともにエントリーシートの書き方や履歴書の添削、面接・マナー指導など、自己分析からはじまり進路相談や就職活動に関するきめ細やかなサポート・支援を行っている。
「就職活動の第一歩は、自分を知ること。自分の長所を知らなければ相手に売り込むことはできませんからね。セールスポイント、魅力を自分で知った上で、企業から聞かれたときにPRできること。しかし、意外と自分の長所をわかっていない人って多いんですよ。そこを引き出してあげることも私の仕事なんです」。
日々学生と向き合う中で、彼女が心がけているのが「学生一人ひとりの立ち位置に立つこと」だという。「学生の能力や性格は千差万別。個々に合わせた立ち位置に立ち、その子が何を求め、何をしたいのかを考えてあげること。見誤ると学生を苦しめてしまうことにもなりかねない。常に立ち位置を確認しながら取り組んでいます」。
「新入社員の不安を解消したい」がきっかけ
キャリアカウンセラーを目指すようになったきっかけは、銀行勤務時代にさかのぼる。人事部の研修チームに所属し、銀行業務やマナー指導を担当していた。そこで新入社員が会社や仕事に対して悩み苦しむ姿を目の当たりにする。 「私に何かできないか・・・」。
そんな時、『CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)』の資格のことを知る。CDAはキャリアカウンセラーの資格の一つで、個人の興味、能力、価値観などの特性をもとに、個人に望ましいキャリアの選択・開発を支援するキャリア形成の専門家を目指すもの。
「私にできるのはこれだ!」と直感。土日の休日を利用して勉強を続け、資格を取得し、会社でも資格を活かしてカウンセリングを行うようになった。「カウンセリングで人が変わっていくんです!自分を見つめ直すことで、自信を持ち、どんどん元気になっていく。それを見ているのがすごく楽しくて」。ここからキャリアカウンセラーとしての道を意識し始めるのだった。
カウンセリングの経験を経て、キャリアカウンセラーとして大きく成長
その後、ふくいジョブカフェ(福井県若者就職支援センター)に転職。キャリアカウンセラーとしての本格的な出発だった。 連日多くの求職者が訪れるジョブカフェ。訪れる人の年齢や経歴は実にさまざま。適職を見つけたい、仕事の悩みを聞いてほしい、就職活動のノウハウを教えてほしいという要望も多岐にわたり、柔軟に対応していかなければならなかった。
「慣れないころは、常に相手に共感しなければいけないと思っていました。そのため、自分をコントロールできなくなってしまうこともあって・・・。しかし、それでは自分が壊れてしまう。受け入れるのではなく、受け止め、解決策を見つけることが必要なんだと気づくことができました。それからどんな相手でも動じず対応できるようになりました」。いろいろな人と接することで、ケースバイケースで対応できる力を身に付け、キャリアカウンセラーとして成長する。
当時、大学生に向けてもキャリア支援を行っていた。そこで、自分の気持ちを出せない、親との狭間で揺れ動く、就職活動の時期になっても何をしたいかわからないという学生たちに出会い、早期のキャリア教育の必要性を痛感。「親が公務員だから子どもも公務員に、というのは子どもたちの可能性をつぶしているんじゃないかと思いました。子どもは無限の可能性を持っている。世の中にはたくさんの仕事があって、いろいろな面白さがあるんだよって、小さいころから教えてあげれば選択肢はもっと広がるはずなのです」。
キャリアカウンセラーとして、順調にキャリアを積み重ねていた彼女が、さらなるステップアップを目指して動いた先が福井工業大学だった。
信頼関係を築くことから始まるキャリアカウンセリング
「福井工業大学に来てすごくやりがいを感じています。だって学生たちには未来がある。いろんなことを選択できる可能性があるのです。目標に向かう一生懸命な姿は頼もしく、応援したくなりますね」と笑顔がこぼれる。
彼女のカウンセリングは、時間をかけて話をし信頼関係を築くこと。それから個々に応じたきめ細やかなアドバイスや支援を行うのだ。
心がオープンになれない学生に対しては、より時間をかけ積極的に関わるよう働きかける。「奥に秘めたものを吐き出してもらうのです。時には泣き出す学生もいますが、吐き出した後は心が浄化するのでしょうか、明らかに変わってくる。模擬面接だけで震えてしまったり、うまく話せない学生は、毎日キャリアセンターに通って話をするうちに自信をつけるようになる。『面接に慣れてきました!』って報告しに来てくれるんです。不思議ですね、追い風が吹いてきて、今まで落ち続けていたのに就職試験に合格できてしまう。自信を持てるようにしてあげることはすごく大切なことなんです」。
しかし、キャリアカウンセラーも人間だ。時には苦手に感じる時もあるという。そんな時でも背を向けたり、異なる対応をすることは決してない。「それは苦手と感じさせる要因があるから。何回か話をして信頼関係ができたかなと感じた時に『ちょっと聞いてもいいかな』とサインを送る。そこで『こんな風に感じるんだけど、どうしてそうなるのかな』と切り出してみるのです。すると、昔のトラウマであったり、親や友人とのトラブルがあったりすることがわかってくるのです」。
どんな相手でも決して後ろを向かず、正面から向き合う姿は、まさに真のキャリアカウンセラーの姿だ。
苦手な仕事はストレスに、得意分野や好きなことを職業に選んで
渡邉さん自身のキャリアは順風満帆に思えるが、決してそうではない。
「私が就職したころは、向き不向きなんて考えることなく、とにかく就職しろ、一部上場に就職しろという時代でしたから。何も考えずに就職したため、結果これでいいのだろうかと悩みもしました。しかし私の場合、好きなことに取り組んだおかげで、心から楽しいと思える仕事にたどり着くことができました」。
時代は変わり、大学ではキャリア形成からきめ細やかな就職支援が行われ、個人の興味、能力、価値観、特性をもとに就職選択ができるようになった。キャリアセンターを最大限に生かすことで、今後の人生をより充実したものにできる可能性が広がったのだ。
「苦手なこと、嫌いなことは続かないもの。働くことを楽しんでもらいたいから、自分の得意なことや好きなことの中で職業を選択していってほしい」。
最後にキャリアカウンセラーとしての思いを語ってくれた。 「自分の良いところを見つけ、自信をつけていく、そんな学生の成長を見るのが私の喜び。だからこれからも学生の未来と真正面から向き合っていくつもりです」。
学生を笑顔にしたい。 だから彼女は全力で走り続ける。
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