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2022年4月「女子硬式野球部」始動。目指すは日本一!

女子硬式野球部 監督

新井 純子

福井工業大学に女子硬式野球部が新設された。監督には、全日本代表として世界大会で活躍し、大学や実業団チームの指導者としてキャリアを重ねてきた新井純子さんが就任。プロ野球の球団に女子チームが結成されるなど、女子野球が盛り上がりを見せる中で、新井監督の野球に対する思いや今後の目標についてうかがった。

世界大会連続出場と3連覇を果たした日本女子野球界のレジェンド


日本の女子野球界をリードしてきた新井さんが、兄の影響を受け野球を始めたのは3歳のときだった。小学6年生までは軟式野球、中学、高校ではソフトボールに打ち込み、高校を卒業した1993年から6年間は、実業団のソフトボールチームに所属。女子野球部を設けている中学、高校も、社会人チームもほとんどない中でソフトボールを続けながら、野球への情熱を持ち続けた。「野球は、ランナーが出てからどう守るか、あるいはどう攻めるか、いろいろな方法が考えられる。そこに駆け引きが生まれ、その多様さが魅力です」。チームによる作戦の応酬と個々のプレーが織りなす奥深い展開が野球の醍醐味だ。

ソフトボールから硬式野球に転向して間もない1999年2月、女子野球日本代表チームが結成された。選手募集の新聞記事を見て応募し、第1期メンバー20人の1人に選ばれた新井さんは、フロリダで開かれた全米大会に出場。その後、女子野球の国際大会は「女子野球世界大会」(2001~04年)、「WBSC女子ワールドカップ」(2004年~、隔年開催)として開かれ、都度代表メンバーが選出されている。新井さんは2012年の第11期まで連続して選ばれ、14年にわたり日本代表の3塁主として活躍。ワールドカップでは2008年、10年、12年に3年連続優勝を果たし、日本女子野球のレジェンドと言われるようになった。

この間、全日本の活動がない時期は軟式のチームに所属したこともあったが、2006年4月、埼玉県川越市の「尚美学園大学」に女子硬式野球部が創設されると、選手兼ヘッドコーチに就任。以後、指導者としても活躍を続け、ワールドカップ3連覇を達成した2012年の11月に選手を引退。尚美学園大学グラウンドで行われた引退記念試合には全国から大勢の女子野球選手が集まった。

女子野球の競技人口が増え、社会人選手の環境が向上

全日本女子野球連盟によると、女子野球の競技人口は、硬式が2,500人を超え、軟式を合わせると25,000人を超えている。その中で、2022年3月26日~4月3日に開催された第23回全国高等学校女子硬式野球選抜大会で福井工業大学附属福井高等学校が優勝を果たし、大きな話題となった。本大会の出場チームは38に上り、第1回大会(2000年)の8チームの4倍を超えた。クラブチームや社会人チームも増え、女子チームを立ち上げたプロ球団もある。「私が社会人になった頃は、アルバイトや派遣社員として働きながら野球を続ける先輩がほとんどでしたが、今では正社員として実業団チームの一員になる選手が多くなりました」と語り、女子が野球を続けやすい環境が整ってきたことを喜んでいる。

高校や実業団で女子野球が盛り上がりを見せる一方、全国大学女子硬式野球連盟登録大学は10校前後で、高校に比べ遅れていることは否めず、同じく伸びが小さい中学校とともに、今後の発展が期待されている。

プレッシャーが大きいからこそ挑戦する意欲が湧く


選手引退後、「尚美学園大学」のヘッドコーチを続けていた新井さんだったが、2018年、介護・福祉事業などを手掛ける大阪市の株式会社エースタイルが結成した女子硬式野球チーム「WELFARE」のコーチに転身。介護や福祉の仕事をする選手たちを理解しようと、子どもの福祉業務にも携わっていた新井さんに、福井工大女子硬式野球部監督の就任依頼があったのは2021年3月のことだった。「最初は、福井工大野球部の女性トレーナーさんから紹介があり、その後、全日本チームの元監督さんと、福井工大野球部の監督さんからのご要請を受け、決断しました」。


自分に監督が務まるかどうか不安を感じる一方、当時「コーチのままで終わりたくない」という気持ちが湧いていたのも事実だった。「よいタイミングで声をかけていただき、やってみようと前向きな気持ちになりました。采配を振り、勝敗の全責任を負うのが監督です。プレッシャーはありますが、だからこそ、挑戦しがいがあり、楽しみも大きいと思っています」。


粘り強いチームをつくり、全国制覇を目指す

女子硬式野球部には1年生7人が入部した。活動の初日、新井監督がまず選手たちに伝えたのは、あいさつをきちんとすること、道具を丁寧に扱うことなど礼儀正しい行いを心掛けることである。社会で通用する人に成長するために必要な指導を厳しく行うのが基本方針だ。

野球指導で重視するのは、あきらめずに最後まで戦うモチベーションを維持すること。勝負の場で良い結果を残すには粘り強さが欠かせない。そして、良い結果を出すことが、「福井工業大学で野球をやりたい」との目標を持つ後進を増やすことにつながる。そのために新井監督が考えているのが守備中心のチーム作りである。「1・2点リードしていたチームが結局負けてしまう試合を何度も見てきました。最後に粘り強さを発揮するのは守備を大事にしているチームだと思っています」。さらに、全日本チームで教えられたことで重視しているのが、エラーをしたときの気持ちの切り替えだ。「落ち込んで下を向いてはいけない。次はちゃんと取るぞとか、気持ちを切り替えることが大事。流れを悪い方向に変えてしまう空気を払拭するには、“次”の気持ちで向かっていくことです」。

練習は、約3時間の全体練習を週6日実施し、空き時間を利用した個人の練習時間も週2日設けている。7人とも高校の野球部出身だが、今年は一人ひとりを丁寧に指導し、個々のレベルアップを図ることが目標だ。そして来年以降、メンバーが増え、チームとして機能するようになったとき目指すのが全日本大学野球選手権大会での優勝である。「選手たちにも、全国制覇という大きな目標を掲げて進んで行きましょうと伝えています」。新井監督の決意は、プロチームの選手、コーチ、監督の経験を持つ新原千恵さんをヘッドコーチとして招いたことにも表れている。新原さんは、日本一を目指す新井監督の思いに応え、福井へ来る決心をされたそうだ。

自身の経験や学びを選手たちに伝えることも使命だと考えている新井監督。「野球を通じて人間力を高め、大学で学んだことをそれぞれの立場で後輩に伝えていってほしい。そういう縦のつながりが女子野球を支え、さらに発展させていくものと思っています」。



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