FILE No.88

医療従事者の負担軽減を目指して

電気電子工学科 准教授

中道 正紀

新型コロナウイルス感染症でよく耳にする「人工呼吸器」。実は患者によって使用するのが難しく、医者の長年の経験と勘が必要な医療器具だ。これを「計測・制御」という技術を用いて、誰でも人工呼吸器を扱え、医療従事者への負担を軽減させようと研究を進めているのが中道正紀准教授だ。

暮らしに欠かせない制御技術

電気・電子情報は私たちの暮らしを支えている重要な技術だ。ロボットや自動車はもちろん、エネルギーや人工衛星、農業へとさまざまな場所で活用されている。電気電子工学科では、太陽光発電などのエネルギーシステムやパワーエレクトロニクスなどの『電気分野』、人工知能やIoT、宇宙開発などの『電子情報分野』に大きく分かれ、それぞれの学びを深めている。その中に計測・制御技術というものがある。例えば、ロボットを二足歩行させるためには、歩かせるという目的にしたがって、システムが正確に機械を操作することが必要となる。機械をより良く動かし、目的を達成させるために様々な状態で最適な動きをさせるのが制御技術だ。これは私たちの身の回りにある家電製品や自動車などに使われている。エアコンの温度調節、自動車の安全システムなど私たちの生活を便利なものにしてくれている。

制御技術を人工呼吸器に応用する


中道准教授はその計測・制御技術が専門だ。研究しているのは『患者の肺特性に合わせた人工呼吸器の設定・制御』。そもそも人工呼吸器とは、呼吸不全などの症状の患者の口元にガスを送り、この圧力によって肺を膨らませて呼吸をさせる方法。患者の肺の状態をしっかり理解した上で、値を設定しないと逆に容体が悪くなってしまう恐れもある。医者の長年の経験と勘がないとうまく設定できないものだ。それを制御技術によって、自動で設定するのを目標としている。「肺の特性というのは体重や身長、発達状態など人によって全然違うものなので、それぞれの特性データが必要です。このシステムが実現できれば、専門医でなくても人工呼吸器を設定することができ、離島など医者が少ない場所でも有効に活用することができます。さらに医者の経験と勘が通用しづらい未熟児に設定することも可能です」。

無限の選択肢から答えを導き出す面白さ


本来、肺に送り込む空気の量や気管の圧力などの人工呼吸器の計測データから、医者が患者の肺の特性を推測して人工呼吸器の設定値を算出している。これを自動設定・制御するには、肺の特性を自動で導きだす必要がある。そのためには、計測データを用いて、プログラムを組み、最適な肺の表現式を算出するシステムを構築することが必要だ。ここで難しいのが、その表現式である。
「患者の肺の特性を推定するために、まずは患者の肺の表現式を構成するのですが、その表現式は患者によって異なるため、プログラムで最適化処理を行なわなければなりません」。
研究では、この式をプログラムで最適化して、その値が正しいかどうかを検証するという作業の連続だ。学生も研究室でこの研究に携わることができ、中道准教授と学生が連携して、精度よく迅速に最適化する手法を日々模索している。「ロボットだと倒立するかしないかで正解が目に見えて分かるのですが、最適化された肺の特性は正解が判定しづらいので難しいです。逆にそれが面白いですよね」と笑顔で話す。

これからの社会で必要な技術が学べる


この計測・制御技術は、特に農業や医療などの分野での発展が見込まれており、研究では農業をテーマに扱う学生もいる。例えば、植物工場での各種センサー。一般的に工場では植物を育てるための室内環境を『点センサー』で計測・制御を行っている。そのため、工場全体の植物の状態を把握することは難しく、結局は栽培するために人の手を多く入れているのが現状だ。これを点センサーではなく『光ファイバセンサー』を用いることで、広く分布的にデータを得る事ができ、環境の制御、農業従事者の負担軽減に繋がることが可能になる。そこで中道准教授の研究室は、神戸市の企業と共同で、光ファイバで従来は計測できなかった栽培環境の『湿度』や『水分量』などのパラメータを計測可能にするため、さらなる研究をおこなっている。
「計測・制御は様々な分野に関わってくる技術。私が行っている人工呼吸器の研究で医療従事者の負担軽減へとつながるように、この技術でより便利な社会になってほしいと思います。今後も新しい進出分野があれば、学生たちと共にどんどんチャレンジしたいですね」と話す中道准教授の目にはこれからの計測・制御技術の活躍の姿が映っていた。


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