FILE No.64

研究生活を振り返って

工学研究科 応用理工学専攻 2年

丸山 萌

原生生物であるRapaza viridisをテーマとした研究に取り組んできた、工学研究科応用理工学専攻2年の丸山萌さん。「夢中になれる研究に出会えたことに感謝。興味や探究心がますます深まりました。それに専門知識だけでなく、様々なことを学ぶことができ、自身の成長を感じています」と笑顔で話す。

原生生物に興味津々

高校は商業科だったが、当時から生物や環境に興味を持ち、卒業後はその分野の勉強をしたいと福井工業大学に入学。大学3年の時に柏山研究室で出会ったのが微細藻類などの原生生物だった。もともと生物の動きを観察するのが好きだったため、すっかり微細藻類などの原生生物の観察にハマってしまったという。「最初は観察実験からスタート。顕微鏡で連続的な観察を行い、微細藻類をエサとする捕食性の原生生物の消化の過程を追いました。エサとなる生物は光合成を行なうのに必要な葉緑体を有しています。光合成には葉緑体内のクロロフィルという色素が働きますが、クロロフィルは細胞に有害な活性酸素を発生させる危険性を併せ持っています。つまり葉緑体を有すエサの生物を食べて消化することは危険なことで、それをいかに無毒化させて消化しているか、その代謝過程をじっくり観察してきました」。



好きな研究ではあったが、相手が生き物だということで苦労することもあったという。「ある行動を観察したいと思っても思い通りにいかないのです。例えば、エサを食べる過程を見たいと思っても、調子を崩して食べてくれなかったり。温度管理も重要ですし、生き物相手は大変だと痛感しました」。生き物に合わせるために夜遅くに作業が続くこともあったが、嫌になることは全くなく研究に取り組んできた丸山さん。「私たちとは違うスケールで様々な生き物の生活の営みがある。それに触れることができるのが面白くてしょうがない」と笑う。

新たな結果に驚きと興奮

大学院ではRapaza viridisの葉緑体をテーマに研究に取り組んでいる。「Rapaza viridisは1ミリの100分の1ほどの大きさで、海に生息している生き物。丸っこくて、2本の長さの違う鞭毛が生えています。細胞は透明ですが、その中に緑色の葉緑体が複数個含まれています」と説明。「先行研究では自分の細胞内に葉緑体を持っているのに、捕食も行う生物とされていました。観察をはじめとした様々な実験を地道に続け、データを蓄積するうちにわかってきたのが、エサとして食べた別の藻類の葉緑体を消化しないで、自分の葉緑体として細胞内で保持する“盗葉緑体”を行う生物だということ。思っていたこととは異なる現象を確認できたことに驚きと興奮でいっぱいになった。



苦手な口頭発表も努力で克服


研究の成果は、学会などで発表するが、当初はそれが怖くてしょうがなかった。「学部での最初の口頭発表はひどいものでした。緊張して頭が真っ白に。時間もオーバーして散々な発表になってしまいました」。もともと人前で話すのが苦手。でも、これから先研究を続けていくには、こうした発表は避けては通れない。先生の指導を受けながら、発表の仕方を工夫。場数も踏みながら、少しずつコツを掴んでいったという。「柏山先生には大変なご指導をいただきました。研究発表において、周囲の意見を聞くのはとても大切なことだと教わりました。自分の一方的な妄想になっていないか確認するためにも、周囲の人の意見を聞いたり、ディスカッションが必要だということを痛感しました」。こうして発表の技術も磨かれ、2017年12月に行なわれた日本原生生物学会&日本共生生物学会合同大会でベストプレゼンテーション賞を受賞。優秀な研究発表をされたことで表彰を受けた。「人と話すことに対して苦手意識がありましたが、積極的に話すことで、意外と話せる自分がいることに驚いています。今ではいろんな人と話をしたり、意見を交換し合うのが楽しい」と自身の成長を感じている様子。

新たな研究の道を探って

「研究に明け暮れた5年間でした。集中力が切れて疲れてしまったり、夜一人で実験していて寂しさも感じたりすることはありましたが、決して嫌になったことはありません」と研究に没頭した学生生活。これまでにずっと興味をもっていた森林・環境関連会社と出会い、就職を選んで研究から離れることを決めたが、土日などの休日を利用して研究が続けられる社会人学生の道があることを知り、博士後期課程に受験。今、その結果を待っている最中だという。「様々な視点から物事を考えることのできる社会人として、そして研究者としてこれからも一生懸命頑張っていきたい。まだまだ解明しないといけないことがいっぱい」。丸山さんの興味と探究心は途切れることはなさそうだ。


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