FILE No.040

坂井市竹田の里プロジェクト

建築生活環境学科3年

三浦 史帆里

昨年より福井工業大学の建築生活環境学科(現 建築土木工学科)とデザイン学科の有志が参加している「坂井市竹田の里プロジェクト」の一つ“ツリーハウス・ドーム”が完成し、7月上旬に一般に開放される。「一般の方が利用する施設を作るって、すごく嬉しいものなんですね」と話す建築生活環境学科3年の三浦史帆里さん。「機材を使って作業したのは初めて。授業では得がたい経験をさせてもらっています」と目を輝かせる。

「なんか面白いものを作っているなぁ」が第一印象



高さ約5m、木造2階建てのツリーハウス・ドームは、スギ林の中に立つ大木の幹を囲むように建てられている。32枚の木のパネルを組み上げたドーム型の屋根が印象的で、森の中にたたずむその姿はまるで秘密基地のよう。
ツリーハウス・ドームの制作は、旧竹田小中廃校舎の改修やプレーパークの整備が進められている坂井市丸岡町竹田地区の「坂井市竹田の里プロジェクト」事業の一つ。昨年の秋から、建築生活環境学科(現 建築土木工学科)とデザイン学科の有志が集まり、デザインの提案や、地元の方の協力を得ながら土台作りの工事を行ってきた。特にドーム部分は設計から施工まで学生が担当している。


三浦さんが参加したのは、デザインも決まり、大学でドーム型屋根の仮組みの作業を行っていた頃。新学期が始まってすぐに研究室に顔を出したところ、五十嵐先生に声をかけられたのがきっかけだ。「最初はツリーハウスじゃなく、旧竹田小中学校改修のワークショップに誘われたんですが、週末にツリーハウスの制作が竹田であるからこっちも手伝ってみない?って声をかけられまして。軽い気持ちで参加することにしました」。
竹田に行く前に立ち寄ったのが仮組み真っ最中の教室。作業はすでに進んでおり、メンバーが熱心に作業する姿を見て「面白いものを作っているなぁ。なんだか楽しそう」というのが最初の印象だった。


初の墨出しに悪戦苦闘


現地での組み立ては週末を利用して行われた。三浦さんが向かった時にはすでに土台は完成しており、ドーム型の屋根や階段、周囲の囲いを作る作業を任された。
屋根を組み立てるためにまず行わなければいけないのが、建物の柱の中心線や床・壁の仕上げ面の位置など、工事の基準となる線を構造体に記す“墨出し”という作業。仮組みの際に使用した紙を使って線を引こうとしていたが、紙のサイズが大きい上に、当日は強風で肝心の紙が風に飛ばされ破れて使えなくなってしまう。現場にいたメンバーの中で墨出しの経験があるもののかじった程度という学生が一人いるだけで、あとは知識もないメンバーばかり。イチから墨出しを行うことになったのだが、そう簡単なものではない。「まず仕組みを知ることでひと苦労。線を引けば引くほどどんどんズレていく。とにかく寸法が合わないんです。何十回もトライして、なんとかできた時はホッとしました。仮組みしていたので作業は楽勝と思っていたのですが、そう簡単にはいかないもんですね」と笑う。


小さい頃から憧れていた作業に夢中


柱や面の位置が決まり、いよいよ本格的な組み立て作業のスタートだ。現場での経験を積んでおきたかったという彼女。「現場で作業するなんて初めての経験。もちろん工具を使ってモノを作るのも初めて。最初はネジが曲がっちゃうんじゃないかって怖かったくらい。でもすぐ馴れました。面白くって夢中になりました」。ドームの組み立てだけではなく、足場の組み立てや、材料の運搬など、やらなければならないことは様々。「私の両親は日曜大工をしていたのですが、子どもの時に危ないからと手伝わせてもらえなかったんです。でも当時はすっごくやってみたかった。今、トライしたいと思っていたことができてすごく満足です」。完成したツリーハウス・ドームを前に感じたのは達成感だった。


初めての素材作りにワクワク

現在は、もう一つのプロジェクトである「旧竹田小中学廃校舎改修工事の外装材制作」にとりかかっている。2013年度末に廃校になった旧竹田小中学校を宿泊型体験学習施設に改修するもので、メンバーは外壁材の制作を任されている。外壁は新しい樹脂材と杉板を組み合わせた外壁になる。先日、SSLファクトリーで素材づくりのためのワークショップが開催され、試作品をもとに新しい素材づくりに取りかかった。「まず“レジン複合素材”という外装材を作らないといけない。構造も確かめながら、イチからの素材づくり。今固めている最中で、うまくできるかドキドキ。材料をイチから作るのなんて初めてですから、不安半分、楽しさ半分ってところでしょうか。デザインも任されているのでやりがいは十分。ただ、8月には大量生産しないといけないので、やっぱり大変かな」。


得られるものは貪欲に吸収したい


福井工業大学には様々な学生プロジェクトなどがあり、やる気があれば授業では得られない経験を積むことができる。「大学に入ったからには、得られるものは貪欲に吸収したい」と意気込む三浦さんだが、意外にもしっかり関わったプロジェクトはこれが初めてだという。「高校で進路を決める時、小さい頃から建造物に興味を持っていたので大学で建築を学びたいと思ったのですが、文系だったので入れるかどうか不安でした。そんな時“文系女子も歓迎!”という福井工大のパンフレットを見て、迷わず進学を決めました。でも、いざ入学してみると、授業は理数系もあり、1・2年の時は授業についていくのに精いっぱい。でも、プロジェクト活動にはすごく興味があったので、3年生になり余裕ができた今、ようやく本格的に参加することができました。授業では学べないことも経験できるので勉強になります」とチャレンジには意欲的なのだ。

得意なものを極めていきたい


3年生になり、設計会社でのバイトも始めた。「GLOOBE(グローブ)」と呼ばれるソフトを使ってコンピュータの中に仮想の建物を作っていく作業を任されている。模型作りが苦手で「グローブならパソコンなので、手先が不器用な私も極めれば上手くなれるはず」と奮闘中だ。しかし、社会では完成度の高い仕事が求められる厳しい世界。「大学では基礎しか教わっていませんが、知らないではすまされません。わからないところは自分で勉強してマスターするようにしていますが、実際は大変です。センスも求められますから。今は指示されて動いていますが、いずれ自分で考えながらできるようにしていきたい」。
将来のことも少しずつだが考えるようになってきた。「卒業後は漠然と設計に携わる仕事に就きたいと考えていましたが、グローブを極めるというのも選択肢の一つかなって考えるようになりました。まだまだ勉強が必要ですけどね」。
与えられるものだけに満足せず、自らチャレンジし道を切り拓いていく、そんな頼もしい姿がそこにあった。


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