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「あまみずドリンク」のラベルデザインが水の国際的品評会で銀賞受賞

環境学部デザイン学科 准教授

近藤 晶

近年、さまざまな分野で持続可能な社会に向けての取り組みが進む中、福井工業大学では3つの研究室が共同し「雨水の利活用に関する研究」が行われている。その一環として開発された「あまみずドリンク」のラベルデザインが、2023年2月に水の国際的品評会で銀賞を受賞。デザインを手掛けた近藤晶准教授に本研究やデザインについての考えを伺った。

「雨水の利活用」を目指す共同研究を展開

福井工業大学では9年前から学科の枠を超え、「雨水の利活用に関する研究」が進められている。水は生物の生命維持や農耕に欠かせない資源だが、日本では、雨水の重要性を認識し、広く活用しようという動きはまだ少ない。そのような中でスタートしたのが、環境学部環境食品応用化学科の笠井利浩教授、同部デザイン学科の三寺潤教授、近藤晶准教授の3研究室が共同で取り組む本研究だ。身近にある雨水を飲料水や生活水として活用し、適切に循環させることで持続可能なまちや社会の構築を目指している。

本研究の一環として進められているのが、雨水から製造する「あまみずドリンク」の商品開発である。笠井教授が雨水を飲料水にするためのろ過や浄水などの研究を、三寺教授が「あまみずドリンク」を飲んだ人の雨水に対する意識の変化を探る研究を手掛け、近藤准教授はボトルのラベルデザインやコンセプトムービーといった商品メッセージの発信を担っている。

グラフィックデザインと映像で「あまみずドリンク」をPR


ポスターやパンフレットなどのグラフィックデザインに取り組んできた近藤准教授は、自治体や企業からの依頼に応じ、広報用印刷物や製品カタログの制作、観光施設の誘導サインのデザインなども手掛けている。さらに近年は映像へと制作領域を拡大。「イラストや図などを使って動画を作るモーショングラフィックスと、デジタル一眼レフカメラやドローンで撮影した動画を用いた映像制作が増えています」。今回開発した「あまみずドリンク」の商品メッセージ発信にあたっては、映像とグラフィックデザインの両方を駆使。開発の趣旨や商品の特徴を伝えるコンセプトムービーは、雨が降る屋外映像や工場で製造工程を撮影した映像などで構成し、身近にある雨水と人が共生するイメージを表現している。

「あまみずドリンク」は3種あり、容量は全て250ml。商品名は、水のみの「Amamizu Water(ウォーター)」、炭酸を加えた「Amamizu Soda(ソーダ)」、炭酸と甘みを加えた「Amamizu Cider(サイダー)」である。ボトルは海洋ゴミの原因となるマイクロプラスチックが発生しないガラスボトルを使用。そして、ボトルから商品メッセージをダイレクトに伝える重要な役割を果たすラベルデザインに、近藤准教授のグラフィックデザインの技が発揮された。商品名は笠井教授と2人で考えたが、デザインは一任されたそうだ。


3種の「あまみずドリンク」のラベルデザインに共通するのは、雨水を表す水滴のパーツを流れるように配置したレイアウトである。「60度ずつ回転させて傾きを変えた水滴を、円を描くように並べて水の循環を表現しました。笠井教授には『任せるよ』と言われましたが、リアルタイムで途中経過を報告して意見をいただき、線の太さなど若干修正を加え完成させました」。色は、ナチュラルなウォーターが緑色、サイダーが青色、ソーダには緑色と青色の中間のような水色を採用した。

国際的品評会で「あまみずドリンク」のラベルが銀賞に!

雨水の利活用について社会の理解を深めるには、「あまみずドリンク」をより多くの人々に知ってもらうことが必要だ。そこで、2023年2月にアメリカのバークレースプリングスで開催された水の世界的品評会「バークレースプリングス国際ウォーターテイスティング大会」にエントリー。「8本入りを3セット、計24本を1月下旬に発送しました。アメリカの海外からの搬入物に関する規則はかなり厳しく、書類の記入項目が多くて大変でした。大会の審査料の送金も複雑で戸惑ったのですが、どちらの手続きも初めてだったので、新鮮という意味ではなかなかおもしろい経験でした」。


本大会は5日間にわたって開催され、ボトルパッケージの部門では、全世界からエントリーされたパッケージやラベルの人気投票がWeb上で実施された。広く一般の人々が投票でき、その結果、近藤准教授の「あまみずドリンク」のラベルデザインが2位の銀賞を受賞。4月には表彰状が送られてきた。投票した人の感想や主催者からの講評は聞かされていないが、近藤准教授が「開発段階とはいえ、商品としてスーパーなどに並んでいてもおかしくないくらいのクオリティを目指した」と話すように、質の高いデザインと、そこから伝わるメッセージが多くの人の心を捉えたといえるだろう。

楽しみながらデザインを。映像作品にも注力したい

自治体や企業との関わりの中で水資源の重要性を認識することも多いと話す近藤准教授。「例えば、福井県河川課の方からは、雨水の利活用が河川の氾濫防止につながるなどさまざまな効果があるとお聞きしました。ハード面で僕自身が何かに取り組むというのはハードルが高いですが、今後、雨水を利活用するプロジェクトがあれば、学内外を問わずグラフィックデザインや映像制作を通して広報・宣伝に協力したいと思っています」。また、雨水の利活用に関する研究に携わり多くの経験をしたことで、災害時に雨が降っていたら迷わず雨水を利用できる知識を獲得できたそうだ。

グラフィックデザインやPR動画には、商品や物事のコンセプトを人々に伝える役割が期待されるが、この点について近藤准教授はどのように考えているのだろうか。「正直言って、僕は直観的、感覚的に制作しており、デザインの役割的なことはあまり意識していないんです。ただ現在、デザインを見る一般消費者の目が肥えてきている分、評価も厳しくなってきています。上質なデザインが当たり前のようになってきているので、あまみずドリンクのラベルもそうですが、クオリティや完成度に関しては気を抜いてはいけないと思っています」。


このような時代背景や自身の制作スタイルを踏まえ、「学生には正直にデザインと向き合ってほしい」と語る。知識や技術は興味を持って真剣に取り組んでいれば自然と身についてくるもの。「なぜデザインをやっているのか。誰かの役に立つことも大事ですが、自分自身がおもしろいからとか、単純にかっこいいからとか、そういう真っ直ぐな気持ちでデザインを学んでいってくれたらと思います」。このようにデザイン楽しむ気持ちを大切にしながら、今後は、最近力を入れている映像でもコンテストなどに挑戦したいと話している。


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