FILE No.124
「みんなで笑える競技」を考えた経験を糧に、教員を目指す
スポーツ健康科学部スポーツ健康科学科 3年
唯内 滉生
福井工業大学と吉本興業株式会社との包括連携協定に基づくプロジェクトの一環として、仲間とともに福井中学校体育祭の新競技を考案した唯内さん。吉本興業所属の芸人からアドバイスをもらいながら活動を進め、体育祭当日は、笑いを巻き起こす芸人の司会進行やトークに圧倒された。これらの経験から学んだことや、教員を志す思いなどをうかがった。
課題解決学習の一環として吉本興業との連携企画に参加
中学・高校の部活動でソフトテニスに励みながら、「スポーツは楽しくて、他のことを忘れて集中できる」とその魅力に強く惹かれた唯内さん。スポーツの指導ができる体育の教員になりたいと、教員免許を取得できる福井工業大学スポーツ健康科学科に入学し、地域スポーツ指導者コースを選択した。一方で「おじいちゃんおばあちゃん子だったから、高齢者の健康や福祉にも興味があり、両方の勉強ができる学科を選びました」と振り返る。
スポーツや健康についての授業や実習が主体の中で、唯内さんは教育や学習をテーマにした授業や、学外から講師を招く教育関係の特別講義も受けている。3年生になった今年は、野口雄慶教授が担当する課題解決学習の授業も受講。課題解決学習の一環として4月にスタートしたのが、同大学が吉本興業株式会社と包括連携協定を締結して実施するプロジェクト「FUKUI MIRAI LABO」の企画の1つ「中学校体育祭の新競技の考案」である。「FUKUI MIRAI LABO」では、学生と芸人が「共創」をテーマにさまざまな企画にチャレンジ。今回は、教員志望の3年生3人と、サポート役として加わる4年生2人、計5人が参加し、9月に開催される同大学附属福井中学校の体育祭で実施する新競技を吉本興業所属の芸人とともに考えることになった。
芸人のアドバイスを得ながら中学校体育祭の新競技を考案
本企画は、学生と芸人で考えた競技を実際に中学生に体験してもらい、その結果から内容や進め方を改善し、体育祭当日に実行するという課題解決学習の流れで進められた。初めての会議で企画の内容を知らされた唯内さんたち。「住みます芸人の飯めしあがれこにおさんや、ミサイルマンさん、バンビーノさんなど有名な芸人さんと一緒に進めていくと知りびっくりしました」。参加する芸人は6組。会議は週1回大学で開かれ、隔週で6組のうちから数人の芸人が交替で出席した。1回目の会議では、野口教授から「怪我の心配がない競技にするなど安全を第一に考えてください」と指示があり、具体的内容などは参加メンバーに委ねられた。「みんなで自由に考えていいですよ、と言われ戸惑ったのですが、このとき出席していたミサイルマンの西代さんが、他の大学の似たような事例を教えてくだり、イメージがつかめました」。
その後、競技内容を決める“たたき台”となる最初の案を3年生の3人がそれぞれ考案。中学時代の体育祭の思い出を語り合いながら決めた共通のポイントは、体力や運動神経だけで勝てる競技にしないことだ。「スポーツ専門の学科に入った僕らにとって体育祭は活躍の場だったけれど、生徒の中には運動が苦手な子もいることを考えました」。そして決まったテーマは「みんなで笑える競技」。競技を行っている生徒も、見ている他の生徒や先生、保護者も一緒に笑えることを基本に話し合いを重ね、内容を固めて行った。
会議に出席する芸人たちは、学生が考えた競技案について意見やアドバイスを提供する。皆パワフルで、唯内さんたちはその勢いに圧倒されたという。「会議が煮詰まってくると、僕らはしーんと沈んでしまうんですけど、芸人さんたちは、沈んだ瞬間から、ここはこうした方がいいとアドバイスを連発。しかも、ちゃんと笑わせてくれる。すごいなと思いました。それでも回を重ねるうちに、僕たちも意見を言えるようになり、楽しくなってきました」
大盛況だった「笑スポ!~みんなで笑える競技~」
「みんなで笑える」をテーマに完成した競技の名称は「笑スポ!~みんなで笑える競技~」。「知力」「体力」「運」という3つのゲームで構成し、チームでタイムを競う。「知力」はジェスチャーゲーム、「体力」は大縄飛びと馬飛び、「運」はじゃんけんだ。「体力は、腕組みしながら大縄のところまで走り、10回飛んでからスタート地点へ走って戻り、途中1回馬飛びをするというルールです。運は、校長先生のところまで走って行き、グー・チョキ・パーを全身で表してじゃんけん。勝った人は普通に走ってスタート地点に戻れますが、負けた人とあいこの人には後ろ向きに走って戻るなど、スピードを妨げる条件を設けました」。どのゲームにも、見ている人に動きや面白さが伝わる工夫がなされているのがポイントだ。
9月6日、金井学園体育館で開かれた中学校体育祭では、2年生約60人が本競技に挑戦。約20人ずつのチームに分かれ、1人1つのゲームに挑み、リレー形式でタイムを競った。ミサイルマンの西代洋さんと、バンビーノの藤田ユウキさん、石山タオルさんが競技説明と司会進行を行い、学生は大縄飛びの回数チェックなどでサポート。「芸人さんたちのトークで大盛り上がり。ゲームをやっている生徒たちからも、見ている人たちからもひっきりなしに笑い声が上がり大成功でした」。
人の心を動かし、笑顔にできる先生になりたい
「僕らが考えた新しい競技が、来年以降も続いてほしい」という気持ちで頑張ったという唯内さん。芸人と一緒に企画を進め、多くのアドバイスをもらった中で、教員に必要な姿勢も学んだと話す。「教員免許を持っている芸人さんが、『君らはまだ先生ではないけれど、中学生から見たら大人で先生とほぼ同列だから、堂々とあいさつすることが大事だよ。そこで雰囲気をつかめれば、僕たち芸人みたいにできる』と言ってくださり、これは、自分では気づいていなかった大切なことだと思いました。それからミサイルマンの西代さんには、『君たちの成長ぶりにものすごく驚いたよ』とほめていただきました」。さらに、普段接することのなかった中学校の生徒や先生とやり取りする中で、自分が想像していなかった出来事に臨機応変に対応することも、教員の仕事において重要なことだと実感したという。
教員を目指す気持ちが固まった唯内さんは、大学院に進むことも考え始めている。「これまでは、運動やスポーツの分野と並行して教育の勉強をしてきましたが、もっと広く、そして深い知識を身に付けたいと思うようになりました」。教育と職業としての教員をリアルに捉えるようになり、さらに、芸人という人の心を動かすプロフェッショナルの姿に刺激を受け、「将来は、人を笑顔にできる先生になりたい」と語っている。
OTHER FILES
その他の記事