FILE No.93

ふくいPHOENIXハイパープロジェクト

福井工業大学 学長

掛下 知行

2016年から4ヵ年に渡り「宇宙」をテーマに、地域活性化を目指して福井工大が実施した「ふくいPHOENIXプロジェクト」。国内外において、月および深宇宙探査と人工衛星の商業的利用へ関心が高まっていることを受け、新たに「ふくいPHOENIXハイパープロジェクト」を始動させる。本学の掛下知行学長に、プロジェクトの目的と意義、将来への展望をうかがった。

深宇宙へ飛躍する「ふくいPHOENIXハイパープロジェクト」

あわら市のあわらキャンパスにある高性能衛星地上局。口径10mのパラボラアンテナを有し、2003年から衛星データ利用に関する研究を本格的に行ってきた。また、衛星データ活用に関する研究および宇宙を軸とする産業・観光・精密農業などをはじめとする地域振興イノベーションの創出を図る目的で2016年から「ふくいPHOENIXプロジェクト」を実施。「宇宙研究」「観光文化研究」「地域振興研究」において成果を残し、昨年度末をもって終了した。このプロジェクトは「地域の経済・社会、雇用、文化の発展や特定の分野の発展・深化に寄与する取組」として、文部科学省から「私立大学研究ブランディング事業」としての認定を受けた。

この「ふくいPHOENIXプロジェクト」をより発展した形で継続し、世界においても日本においてもますます活発になる宇宙開発へのさらなる貢献を目指すために、新たに発足したのが、「ふくいPHOENIXハイパープロジェクト」だ。


これまでは、あわらキャンパスの衛星地上局は地球周回軌道衛星からの信号受信をするのみであった。しかし今度は月軌道まで、つまり深宇宙までをカバーする地上局として再整備するという。既存の口径10mのものに代わり、口径16.5mのパラボラアンテナを大学自らの資金で新たに整備し、地上局としての機能を飛躍的に向上させる。その結果、衛星からの信号の受信のみならず、衛星への信号送信、そして衛星の周回軌道の位置情報を知ることができるのだ。「受信、送信、軌道決定。このような3つの機能を有する衛星地上局は、深宇宙探査衛星の運用が可能な大学・民間では国内唯一のものとなります」。したがって、このプロジェクトにより、宇宙技術開発および宇宙産業に貢献する人材育成の拠点形成と地域貢献を行うというものへ飛躍させることが目的だ。
2020年11月に、福井工業大学は宇宙航空研究開発機構「JAXA」と共同研究契約を締結。JAXAが2021年に打ち上げを予定している深宇宙探査衛星「エクレウス」の運用に参画し、衛星地上局としての性能実証を行っていく。「月に関する研究開発を進展させているJAXAとの共同研究契約を機に、国内外の様々な深宇宙探査衛星プロジェクトへの貢献を目指します。将来的には、JAXAの探査衛星からのデータ送受信、軌道修正を行うなど、あわら市の地上局がJAXAのサポート拠点として機能することが目標です」。

同時に、地球周回衛星を運用するシステムや体制を構築する目的で、口径3.7m級のパラボラアンテナをあわらキャンパスの衛星基地に新設する。口径が小さく、送受信できる距離が短いので地球軌道衛星向けになるが、口径16.5mのアンテナと同様、受信、送信、軌道決定が行える。2021年の打上げを目標としている福井工大衛星「FUT-SAT」の運用での使用を想定しているほか、福井県内企業の地球周回超小型衛星の運用に関しても協力関係を構築していく。

自治体と連携し、衛星データ活用を通じた地域貢献

「今回のふくいPHOENIXハイパープロジェクトにおいても、福井工大の衛星地上局で受信する様々な衛星からの観測データを活用して、環境保全や産業振興などの観点から地域貢献を図ることも重要な目的です」。本プロジェクトでは福井県をはじめ、福井市、大野市、あわら市など各自治体との連携を展開していく。例えば、大野市とは「光害(ひかりがい)」に関する研究を共同で推進する。「光害」とは、過剰または不要な光により発生する公害。上記の福井工業大学発の人工衛星「FUT-SAT」が夜間における地上の光量や光の分布を測定して、街や人家から発せられる光の量がどの程度であれば、天体観測などへの影響を少なくできるかを定量的に把握することなどが目的だ。米国に本部を置く国際ダークスカイ協会による「星空保護区」への認定を目指す大野市の観光振興に、大きく貢献することが期待される。さらに、あわら市との連携ではプラスチックなど海洋ごみに関する研究や北潟湖の水質調査に協力し、同市の環境保全の取り組みに参画する。「各自治体と連携協定を結び、地域への貢献を確たるものとしていきます」。

また、実践的な宇宙工学活動に取り組む国内外の大学・高専や、各国の宇宙関連の研究開発機関とのネットワークを構築し、衛星を活用した国際的な環境保全などのプロジェクトへの参加も、地上拠点を整備することで可能になる。

衛星から得られたデータを活用する上で大きな役割を担うのが、2019年4月1日に福井工業大学に設立された「AI&IoTセンター」だ。土壌表面温度や土壌水分量といった土壌環境に関するデータや、活火山や地盤変動のモニタリングデータなど、衛星から得られたデータをIoT・ソーシャルデータと掛け合わせ、AI解析によって「農業」や「防災」に役立つ情報を生み出すことを目的に設置。AIなど解析技術を駆使した衛星データ利活用に関する研究を進展させながら、衛星データを利用した環境保全や産業振興の取り組みやビジネスの枠組みを構築していく。



福井工大の地上拠点を、次世代育成の場に


JAXAとの共同研究、県内各自治体および宇宙研究を行う国内外の大学・研究機関との連携を展開する本プロジェクトは、次世代の技術者・研究者を育む場としての機能も期待できる。また、JAXAなどの機関とともにプロジェクトを展開することで、高い教育効果が得られ、より高度で専門的な知識と経験を学生たちは学ぶことができる。すなわち、プロジェクトの目的である「口径16.5mのパラボラアンテナを備えた、月を含む深宇宙探査衛星の運用が可能な地上局の構築」「口径3.7mのパラボラアンテナを用いた、地球周回衛星を運用できるシステムや体制の整備」「衛星データとAI・IoTを組み合わせ、環境保全や地域経済振興への貢献を行うビジネスモデルの確立」への取り組みを、福井工業大学および大学院の教育課程にも組み込み学生たちと共に推進していくことを通じて、福井県の次の世代を担う人材を育成していく。「このプロジェクトを実施することで、『先進性』や『高い専門性』という福井工大のブランドイメージをアピールするだけでなく、宇宙研究やAI・IoT分野を志す若い世代にとって魅力ある県にすることにも繋がっていくと考えています」。この「ふくいPHOENIXハイパープロジェクト」をはじめ、福井工業大学の宇宙研究開発プロジェクトが実績を積み重ねることができれば、国内外の優秀な人材が福井に集まることにも繋がる。福井が宇宙研究の一大拠点となるのは、そう遠い未来ではないかもしれない。


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