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2025.09.24
安全な医療AIの実現へ ― 対話AI『ケアボット』のガイドライン策定に向けたキックオフシンポジウムを開催!
2025年9月22日、福井工業大学AI&IoTセンターは、AI&IoTコンソーシアム「Ethical AIワーキンググループ(WG)キックオフシンポジウム」を開催しました。本シンポジウムでは、がん患者向け対話AI『ケアボット』を題材に、医療AIの倫理的・社会的課題と安全な社会実装をテーマとして、国内外の専門家、医療従事者、患者支援者、技術者、学生らが集い、多角的な議論が行われました。
基調講演では、大阪大学ELSIセンター長の岸本充生教授が、「技術的にできること」と「社会的にやってよいこと」のギャップを埋めるELSIの重要性を強調。形骸化しがちな同意取得に頼るのではなく、事前のリスクアセスメントと安全性の証明の必要性を述べ、大阪大学での顔認証システム導入事例を紹介しました。
米国西海岸からオンライン登壇したAnkit Virmani氏(Virufy Inc.)は、画像診断から創薬、臨床試験に至るまで、がん医療におけるAI活用の動向を俯瞰。プライバシー、アルゴリズムのバイアス、説明可能性といった倫理的課題への対応が不可欠であると指摘しました。
当センターの芥子育雄センター長は、短い外来診療時間では拾いきれない患者の不安に寄り添うことを目的とした対話AI『ケアボット』の現状を報告。高齢者を想定した音声中心のUI、がん体験者の知見を活用するデータ設計、共感→原因説明→改善提案の心理学的フローを紹介し、臨床研究を経てWGの議論を基に安全ガイドラインを策定し、段階的な社会実装を目指す方針を示しました。
パネルディスカッション「ケアボットが拓く地域医療の未来」では、次の観点が共有されました。
医療現場の視点(福井県済生会病院・宗本義則氏):余命などセンシティブな情報をAIが直接伝えるリスクを指摘し、慎重な表現規範の必要性を強調。深刻な発言を医療者が適時確認できる体制の重要性にも言及。
患者支援の視点(株式会社オリナス・加藤瑞穂氏):AIが24時間の対話相手となることで孤独感を和らげる可能性に触れつつ、在宅利用では危険兆候を訪問看護など地域包括ケアへつなぐ連携の重要性を示唆。
技術実装の視点(福井工業大学・岡田真教授/株式会社jig.jp・福野泰介氏):倫理判断を踏まえたデータ作成の難しさを整理し、公的情報を中心とした“許可リンク(ホワイトリスト)”の運用による誤情報抑制と使いやすさの両立を提案。
ビジネスの視点(株式会社天晴データネット・西川孝盛氏):小規模な実証から段階的に広げる進め方の有効性を示し、事業化にはセキュリティ確保が不可欠である点を指摘。
本シンポジウムの議論は、今後策定する「福井版・医療対話AI安全ガイドライン」の重要な礎となります。福井工業大学AI&IoTセンターは、多様なステークホルダーとの共創を通じ、誰もが安心して利用できる医療AIの研究開発と社会実装を進めてまいります。
お問い合わせ:西尾 隆秀