式辞集
COLLECTION OF FORMA
令和8年度
ENTRANCE CEREMONY SPEECH AY2026

新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。
福井工業大学の教職員を代表してお祝いを申し上げます。
本日ここに、希望に満ちた540名にも及ぶ皆さんの顔を拝見し、大変感激しております。
皆さんが今日この場におられるのは、皆さん自身のたゆまぬ努力の賜物であることは言うまでもありません。しかし同時に、そこにはご家族や学校の先生方、そして友人たちといった、多くの方々の温かい支えがあればこそです。長年にわたり、皆さんの成長を見守り、いつくしんでこられた保護者の皆さまに対し、深く敬意と感謝を表したいと思います。
本学は開学以来、約三万人に及ぶ人材を社会に送り出してまいりました。産業界、学術界、地域の政官界や経済界など、さまざまな分野に広がる、この人的ネットワークは、本学の大きな財産であります。本日ご入学された皆さんを、この強固なネットワークの新たな一員としてお迎えすることになり、大きな喜びとともに頼もしく感じております。
このつながりは、皆さんが将来、社会に出た際、必ずや大きな財産となることと確信しております。
さて、人生にはいくつかの大きな「節目」が存在します。大学への入学は、まさにその最たるものの一つです。今日、皆さんの目に映るキャンパスの光景、耳に届く式典の音、春の香り、そして今抱いている緊張と期待の入り混じった感情を、五感のすべてを使って記憶に刻んでください。将来、皆さんが人生の岐路に立ち、重要な選択を迫られたとき、この初心の記憶が、進むべき道を照らす、ともし火となるはずです。
福井工業大学は、電気・機械・化学・土木建築といった明治期から日本の近代化に貢献した伝統的工学分野や北陸地域に関連の深い原子力技術分野に加え、情報、デザイン、データサイエンス、ビジネスマネジメントなどのソフトテクノロジ分野、さらにはWell-beingに関わるスポーツ科学分野までを包含する理工系総合大学です。
現代社会におけるテクノロジーは、単一の専門分野のみで成立するものではありません。例えば、現代の「自動車」を考えてみましょう。それは単なる機械部品の集合体ではありません。材料工学が生んだ軽量ボディに、高度な半導体技術と電子制御技術が組み込まれ、その上に自動運転プログラムが実装され、さらに人間工学に基づいたデザインと緻密なマーケティングに基づき完成される「統合化システム」です。
本学の多彩な学科群は、こうした現代テクノロジーの統合や融合を学ぶことのできる環境です。また、福井工業大学には特色のある研究を進めている部局がいくつもあります。
あわら宇宙センターの13.5mのパラボラアンテナは月と地球間の通信が可能な我が国におけるオンリーワンの施設です。くしくも本日ロケットが打ち上げられたアルテミス-2計画に参画する機関としてNASAに公式認定され、この施設を使った研究開発、人材育成を推進しております。それ以外にも医療分野における倫理性を持った自動応答システム、月面での構造物や移動体の研究、水資源や食品、生命体、生体に関する先進的研究など、みなさんが興味、好奇心を持つ研究が様々な部局で実施されています。
本学は、皆さんひとりひとりが持つ夢や目標に対し、多様な学修機会を提供し、それぞれの将来像を描くために全力で応援いたします。
さて、私は工学部の電気系の出身であります。ここで、かつて恩師から伺った興味深い話を紹介いたします。それは、漢字の「工」、つまり「工学の工」や「工業の工」でありますが、「工」という文字の解釈や意味についての話です。
「工」という字は、上下の二本の横線と、それを結ぶ一本の縦線で構成される極めて簡潔な形をしています。
上の短い横線は「天の理」すなわち「自然の摂理」を表し、下の長い横線は「地の万物」すなわち「人間社会のあらゆるもの」を表します。そして、中央の縦線は、その「天」と「地」を繋ぐ橋渡しを意味するというものです。
つまり「工学」とは、自然の原理を深く理解し、それを人間社会に役立てる形へと「橋渡し」をする学問なのです。17世紀以降、人類は熱エネルギーを動力に変え、電磁波を通信に利用してきました。20世紀半ば以降、コンピュータを創り出し、それらをネットワーク化したインターネットにより、社会構造そのものを変革させ、ビッグデータに基づくディジタルトランスフォーメーションDXの時代へと突き進んでいます。わが国が提唱するSociety 5.0も、その延長線上にある未来社会の姿といえます。そして今、私たちは「人工知能AI」という、人間の知能そのものを対象とした新たなイノベーションを実現しようとしています。
現在、世界を席巻している「生成AI」は、簡単な表現から、文章、画像、映像を生成することができ、社会のあり方を根底から変える程のインパクトを持っています。皆さんの大半が、ChatGPTやGeminiなどのツールを日常的に使っていることと思います。これらは2024年のノーベル賞の対象となった「深層学習」を基盤としており、利用者との対話能力や意図に応じた作文能力は驚異的です。
しかしながら、皆さんに強く申し上げておきたいことがあります。生成AIを「宿題やレポートを効率よく終わらせるための魔法の杖」のように利用しようと考えたことはないでしょうか。そう考えた瞬間、皆さんは自分の頭で考える機会を失い、成長の可能性を自らの手で止めたことになります。それは、人間がAIの主人であることを放棄し、AIの隷属下に入ることに他ならないからです。
現在のAIは、平然と嘘をいうこともあれば、偏った回答を出すこともあります。AIは「論理的な思考」をしているのではなく、確率的にもっともらしい単語を繋いでいるに過ぎません。大切なことは、AIに依存しすぎないことであり、自分の思考を「拡張」し、「強化」するための伴走者とみなすことです。「なぜそうなるのか」という根拠やエビデンスを常に追求し、主体的に考える姿勢を忘れないでください。
大学生活の4年間は、人生において最も自由な時間である一方、最も重要な準備期間でもあります。これまでは次の学校、つまり中学なら高校、高校なら大学という明確な目標がありましたが、大学の先にあるのは「実社会」という広大な海です。この4年間で皆さんは、海に立つ荒波を乗り越えるための「力」を蓄えるべく、いい準備をしなければなりません。
皆さんに期待するのは、単なる専門知識の習得だけではなく、実社会で真に使える種々の能力の涵養です。
自ら問いを立てる問題発見能力、論理的に解を導き出す問題解決能力、目標を細分化し実行するプランニング能力、自分を律する自己管理能力、他者の意図を汲み、自分の考えを伝えるコミュニケーション能力、多様な背景を持つ人々とチームを組んで解決する協調能力、そして、現代に不可欠なプレゼンテーション能力や文章表現能力などです。
これらの力は、一朝一夕に身につくものではなく、日々の学びと経験の積み重ねによって培われます。
是非、好奇心を持ってさまざまなことに挑戦してください。失敗を恐れる必要はありません。失敗から学び、成功から喜びを得る、そのサイクルの繰り返しこそが成長につながります。
本学には、多様性に富んだ人々が集っています。教職員、友人、先輩、後輩、そして留学生との交流を通じて、広い視野と豊かな人間性を育んでください。特に、新たな出会いを大切にしてください。それらは生涯にわたる貴重な財産となるでしょう。
福井工業大学には「すべてを学生のために」という、建学以来のモットーがあります。私たち教職員は、皆さんが自らの可能性を伸ばし、社会に貢献できる人材へと成長するために、全力で支援してまいります。皆さんがこのキャンパスで、しなやかに、そして心から楽しみながら、充実した学生生活を送られることを念願しております。
結びにあたり、皆さんの前途が希望に満ちたものであることを祈念し、お祝いの言葉といたします。
令和8年4月2日
福井工業大学 学長 馬場口 登