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特別対談『宇宙開発における人材育成とこれからの大学の役割』

特別対談『宇宙開発における人材育成とこれからの大学の役割』

あわらキャンパスの新規アンテナの設置や地上局整備など、宇宙をキーワードにした新たなプロジェクトを進める福井工業大学。
その鍵となる人材育成を進めるためのポイントや、そして大学がこれから求められる役割とは何なのでしょうか。
ふくいPHOENIXハイパープロジェクト特別講演会で登壇いただいた中須賀真一教授との対談で探っていきました。

中須賀真一教授

- 中須賀先生は講演会で「ビリビリした(感動的な)経験を大事にしよう」と呼びかけをされました。その経験が今の研究につながっているということでしょうか。

中須賀 子どものころ父と一緒に、アポロ11号の月面着陸をテレビ画面で見ました。月にだんだん近づき最後にタッチダウンして、“The Eagle has landed”というNASAへのメッセージの回線が流れてきて、最後に「ピー」って鳴るんです。あのピーの音がずっと頭に残っていて、当時電話で友達と話す時もピーと付けて会話していましたね(笑)。
着陸のことも記憶に残っていますが、それよりインパクトがあったのが、父に聞いた、地球に帰ってくる時の話です。アポロ11号が地球の大気圏に入る時の角度がすごく大事だと言うんですね。「局所水平」からの角度が1.5度ほどの幅に入らないと、大気の抵抗で失神したり跳ね飛ばされたりする、そういう話を聞いていたんです。
地球から月までの38万kmという距離からわずか1.5度の間に入ることができるのかと、本当に怖くて仕方がなくて大気圏に突入するまで不安で眠れなかったですね。それが私にとっての宇宙事始めでした。
翌年の大阪万博もインパクトのある体験でした。大阪に住んでいたので4回も行きまして、そのうち2回、アメリカ館で4時間並んで月の石を見ました。人混みの中でしたが「えっ!」と超感動しました。

掛下学長

- 世代的には掛下学長も同じくらいですか

掛下 私は当時高校2年生で、札幌から修学旅行で万博に行きました。4日間のチャンスがあったので月の石を見に行こうともしましたが残念ながら全然見られなかったですね。仕方がないので1時間くらい並んでソ連館に行きました(笑)。
宇宙船が月に到着したということで、われわれの世代にとっても宇宙をちょっと身近に感じるきっかけになりましたよね。個人的には星が好きだったので、宇宙に対するワクワク感を抱いた記憶もあります。

中須賀 そういうビリビリと感じる経験があるはずなんですよね。ですから、どういう材料を与えると子どもが反応するか試す機会を親がいっぱい作ってほしいと思います。子どもが反応を示したら、それに関する物事をどんどん刺激として与えていく流れですね。
東大でバイオエンジニアリングを研究している女子学生に「なぜこの世界に入ったの?」と聞いたところ、小学生の時にお父さんに恐竜展に連れて行ってもらって以来ハマってしまって、日本に来る恐竜展を全て見に行ったと言うんです。それで、バイオエンジニアリングをやりたくて東大に入ってきたと。そういう経験をベースに、自分に正直に進路を決めていくことが大切ですよね。子どもが興味を持つ物事が見つかったら、それを徹底的にやらせる方がいいのではないかと思うんですけど、特に東大生だと「受験勉強の邪魔になる」ということでダメだと言うんですね。これって全く逆の教育をしてるなといまだに思っていて、本当にのめり込めるものをどんどんやらせてあげることが必要だと思います。
日本人は物事に真面目にコツコツ取り組むし、長いこと繰り返しやることを本質的に抵抗なくできる国民だと思ってるんです。そういう人たちが何かに打ち込んで徹底的にやれば絶対いいものができるはずで、そういった経験ができる機会をどう与えるかが大事ですよね。
ビリビリしたものを感じそうな機会をいろいろ見せてのめり込めるものを探す。そして、それが見つかったら徹底的に取り組める機会を与える。この二つが大切ではないかと思います。

掛下 全く同じ考えです。学問のスタートポイントとして、ワクワク感や「なぜなんだろう」と感じる気持ちがとても大切だと思うんです。福井工業大学でも宇宙のワクワク感を学生に伝え、実際にそれを体験し展開していく体制を組んでいます。それが教育の原点ですよね。

中須賀 そうですよね。

掛下 中須賀先生がおっしゃるように、日本人はのめり込めるものが見つかるととことん突き詰める職人のような気質があると思います。あわらキャンパスに大きなパラボラアンテナを作るにあたっては、ワクワク感を切り口に興味を持つことを重視して展開する考えです。
中須賀先生は講演会の中で、「今の教育には、失敗から学ばせたり、とにかくやらせたりする取り組みがあまりない」ともおっしゃっていました。学生も本当はそういった機会を望んでいるということですよね。

中須賀 そうした機会を与えることは大学生になってからでも全然遅くないと感じています。本当にのめり込む時は徹底的にのめり込むし、人工衛星をなんとか飛ばさなきゃいけないとなったら、外の専門家に聞いてでも何してでも解こうとするんですね。大学でそういった経験をしておくと、社会に出た時もとても役に立つと思うんです。
課題解決にはモチベーションの強さも重要ですね。実現したいと思う気持ちがどれだけ強いかによって成果が大きく変わってきますから。そういう、モチベーション向上につながる題目を提供することが大事ではないでしょうか。

- 中須賀先生は東京大学に戻られる前にIBMにいらっしゃいました。その時の経験は今の研究にどのように生きているのでしょうか。

中須賀 当時はAIの機械学習を研究していました。コンピュータがどんどん賢くなる研究が面白くて、工場の制御を機械学習でやっていましたね。例えば、機械学習によって1日の生産台数を5000台から6000台にしたら大きな成果となる。研究結果が如実に出てくるのが非常に面白かったんです。大阪人なので「使ってなんぼ」というのがあって、そういった成果が出てくることにうれしさを感じるのでしょうか(笑)。IBMにいた時にはとてもいい経験ができました。
期間は短かったですけども、企業での勤務経験によって、社会の動きや会社の動きを見ることができたのも大きな収穫でしたね。

対談風景

- 人材育成というテーマに即して、福井工業大学として育成したい「望ましい学生像」のキーワードがあればお聞かせください。

掛下 一言で言うと「タフな学生」ですね。何事にもおいてもくじけず粘り強く取り組むタフさを学生には望みたいです。コミュニケーション能力などさまざまな要素もほかにありますけど、まずは粘り強いこと。これがキーポイントだと思っています。

中須賀 宇宙というのは一つの学問分野だけでは解けない世界です。さまざまなことを勉強していかなければならない時に、専門外のことをどう解くか考え、しっかりと動ける人ということですね。
方法はいろいろあるんです。自分で勉強してもいいし、詳しい人を連れてきてその人に聞くのでもいい。そういった人をチームの中に巻き込んでしまう、オープンイノベーション的なことをやっている学生もいます。
いずれにせよ、分からないことを分からないで止めておかないで、解くべく努力をする気質が必要です。これが問題解決に対する強い意志を持つことだと思いますが、そういった学生が宇宙分野に多くいるといいですね。

- 今どきの言い方をすると「生きる力」という表現になるのかなと思うのですが、そうした力を高めるため、中須賀先生が学生に普段から伝えていることはありますか。

中須賀 よく言っているのは「チャレンジしろ」ということですね。今あるやり方だけで解けない問題にぶつかったら、やはりチャレンジしなきゃいけないわけです。
それと、「自分のプロジェクトだと捉えているか」ということもよく言います。誰かに言われたからやっているとか、頼まれたから手伝っているといった感覚でいたらいいものが絶対できないんです。自分のプロジェクトだと思えば、自分の分野が早めに終わっても他の分野が気になって見に行くんですよ。見に行って、「いや、それおかしいじゃん」というようなことから議論が始まるんですよ。これがすごく大事で、私の研究室の衛星プロジェクトでは常に、自分のプロジェクトだと考える習慣づけを与えるようにしています。
それから、「めげずにどんどんやっていけ」とも言いますね。やはり失敗とはつきものなので、失敗してもへこたれずにやれと。何かしらのやり方が悪かったから失敗したわけで、失敗によって得られる知識が増えるんですね。

- 中須賀先生のお話は「横連携」という意味でも捉えることができますが、福井工業大学の学部学科も横連携が取りやすい構成ですよね。

掛下 福井工業大学は「工業大学」と称してはいますが、実は2015年4月に改組しています。工学部からの発展ということで、デザインだとか、経営情報だとか、経済系プラスAIとかIoTとか。いわば『文理交錯』です。それから従来からある、機械、電気、土木建築などの学科、それとスポーツですね。スポーツもさまざまな分析を行う過程で他学科とプロジェクトを組むことがあって、ある意味で総合大学的になっているんですね。 学科同士が近いですし、よい環境にあると思っています。

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- コミュニティのハブになる人材が不足している現状で、高等教育が何をしていかなければならないのか、あるいは何ができるのでしょうか。

中須賀 一言で言うと「機会」ですね。コミュニティの場に出る機会が圧倒的に少ないんだと思います。国内のコミュニティをつくる機会も少ないし、国際的な場に出ていく機会もすごく少ない。これが欧米だったらもっと機会が多いんです。それでも最近は、国際的な連携プログラムで海外に行ったり、今だったらネット上で議論をしたりする高校生がけっこう出てきました。これはとてもいい傾向ですよね。ただ、数としてはまだまだ少ないので、こういう機会をもっと増やすべきでしょう。今だったらオンラインでできることも増えたので、大学でも国内外の大学と連携するチャンスは増えているのではないでしょうか。
社会問題や地球規模の課題の解決策を探る議論をいきなりするのは難しいでしょうから、プログラムを組んだ上で各々が検討し議論に発展させる方法も一つでしょう。ともあれ、そういう機会を増やすことがスタートだと思います。

掛下 日本人の場合、宇宙関連の領域に限らず、海外に行くと日本人同士でかたまってしまって結果的にグローバルな場面に慣れていかない。グローバルと言っているわりにはローカルな形になってしまうんです。 目的意識をもって踏み出せるような教育も必要なのかもしれないですね。
英語の壁があるのかどうしても控え目になりますけど、若い人から少しずつそうしたマインドが変わってくるんじゃないかなとも思います。私が年をとったからかもしれませんが(笑)。

対談風景

- 福井工業大学では、新たなパラボラアンテナ設置や『FUT-SAT』の打ち上げなどトピックが控えています。最後に、先進的な取り組みをなさっている中須賀先生から福井工業大学への期待のお言葉をいただけますか。

中須賀 衛星作りを行っている大学は国内外に多数あります。しかし、地上局をベースに一つの拠点を作ろうとする取り組みは世界にもそれほど例がないし、日本にもありません。大学としてオンリーワンの地位を確立し、「あの大学に行って勉強しようよ」と、国内外の若者たちから見えるような大学になっていかれるといいなと思います。そうすればきっと、大学の宇宙コミュニティ全員にとってハッピーな状況になることでしょう。
それと、われわれが打ち上げる深宇宙衛星についていうと、宇宙機関の地上局だけではやっぱり運用できる回数が足りないんですね。ですから、大学コミュニティが深宇宙に乗り出していく時の拠点としてもぜひ利用させていただきたいです。今後の発展に期待しています。

掛下 中須賀先生がおっしゃったオンリーワンの拠点として、宇宙開発に関わる日本の企業や大学などにも中心的な拠点として使っていただければと考えています。オンリーワン、いい言葉ですよね。これからもよろしくお願いいたします。

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