打ち上げが待ち遠しい人工衛星『FUT-SAT』1号機。 組み立ての陣頭指揮をとっているのがA軸を担当する中城先生です。
作業が始まったのは2月中旬ごろ。 人工衛星を構成するコンポーネント(部材)の基本的な組み立てを終え、取材時にはテスト用ケーブルを使った配線チェックをしているところでした。 「作業としては7合目あたりまで進んだ感触です。 しかし、ここからのあと3合がいよいよ正念場ですね」
コンポーネントには、「小型人工衛星分野では世界のリーディングカンパニーの一つ」という、デンマークの『GOMSPACE』社の製品を採用しました。 先生は「FUT-SATのミッションの一つに、人工衛星による地域のビジネスモデル創生という目標があります。 すでに宇宙での動作実証があるという点が採用のポイントとなりました」と振り返ります。
▲研究室内の通称「ラボ」でFUTSATを組み立てる中城先生。 防塵・帯電防止の服装で、コンポーネントを慎重に組み上げています。
中城先生は、衛星画像と地上センサーを組み合わせ夜の空に及ぼす街灯りの影響を研究されています。今回のような汎用のコンポーネントを用いた研究事例はほかにもあるのでしょうか。
「NASAの大型衛星を使っている例はありますが、大型衛星では光の強弱しか分からないという弱点があります。 FUT-SATの稼働が本格化すれば、光量だけでなく、夜空を明るくする度合いの強い短波長の光の分布も分かるようになります」
FUT-SATが日本上空に飛来するのは、人々の活動がまだまだ活発な夜の時間帯。 人工衛星の組み立てと並行し、飛来する時間帯に合わせて地上から夜空の写真を自動撮影するシステムも開発中です。 ワンボードPC『ラズベリーパイ』と市販のカメラモジュールを組み合わせ、オープンソースのLinux(リナックス)ベースのソフトウエアで動作させる仕組みです。
「オープンソースを活用することで、自動撮影・画像解析などさまざまなツールが無料で簡単に手に入るようになりました。 とはいえ、夜空の画像を解析したり明るさを自動判定したりするマニアックなツールはないので(笑)、ここはやはり自分たちで作る必要がありますね」。 ソフト開発には研究室の学生も加わり、日々改良を加えているところです。
人工衛星や自動撮影などハイテクの組み合わせで展開するシステムですが、「意外なところでローテクなところに苦労があるんです」と中城先生。
「地上に設置するセンサーは、ふだん人の手が届かない場所での運用になります。 センサー自体は雨に濡れないようにケースに収めますが、ケースの曇りや汚れなど、人の手を介してメンテナンスしないといけない点をどうクリアするかが課題ですね。 地上の設備は『宇宙に行かない』というだけで、実は人工衛星とさほど変わらない運用になるんですよ」
▲プロジェクトの重要な鍵を握るカメラモジュール。ここで撮影したデータが、福井の農業・観光・文化の可能性を広げていきます。
ISS(国際宇宙ステーション)からFUT-SATが放出されるのは2019年秋頃。 3月中にはフライト用の配線ケーブルが届き、ソフトウエアの動作試験を行う予定です。 その後、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の試験仕様に沿った熱真空試験・振動試験を行い、JAXAに衛星を引き渡すことになっています。
「福井県が進めている『県民衛星プロジェクト』では、福井のものづくり技術を宇宙産業に展開するさまざまな実証が進むと思われます。 FUT-SAT1号機とは異なるアプローチのプロジェクトですが、ふくいPHOENIXプロジェクトで得た知見を『衛星からのデータの実利用』という点から地域に還元できれば」。 中城先生は今後のビジョンについて、このように話してくださいました。
中城先生の過去のインタビューはコチラ→http://www.fukui-ut.ac.jp/phoenix/interview/detail/003.html