近年、様々な分野において、正課授業と課外授業の区別なく、授業に関するアンケートが実施されるようになり、高等教育機関においても様々なプロフィールの受講者に対し、受講生の理解度の他、興味や関心の大きさを測定することが行われている。しかしながら、直接的かつ平易な言葉で質問を記述することで、アンケート作成者の意図が露見し回答の誘導が行われたり、回答者の誤解を招いたりすることがある。こういった、回答結果が回答者の意図とかけ離れている状態のことを「回答のゆらぎ」と呼び、アンケート結果が回答者の考えを反映していない状態を「アンケートの機能不全」と呼んでいる。
本研究では、適切な授業改善を進める上でアンケートの設問に潜む機能不全に着目し、アンケートに関する定性的・定量的な情報から、「既存アンケートの再設計を行う方法を確立すること」を目的としている。
まず、項目反応理論を用いて、過去に取得した初学者向け授業アンケート結果を分析する。項目反応理論は、評価対象となる項目群への応答(回答)に基づいて、回答者の特性(技術・知識・態度等)や各種識別力を測定するための確率的理論であり、社会科学や心理学といった分野で求められる「母集団の推定」や「無作為抽出(ランダマイズ検定)」が行われなくても、回答者の特性等を概ね理解することができる。この分析を通じて、機能していない質問項目を見出し、アンケートの再設計方法を確立することを目指している。
経済産業省の研究会が2002(平成14)年に提案した、企業を対象とするブランド価値評価モデル(経産省モデル)は、公表されている財務諸表データのみでブランド価値の算出を行えることが特徴である。一方、上場企業においては、株式時価総額による評価があり、これと比較すると、株式時価総額とブランド価値が必ずしも一致しない。
本研究では、このズレの構造を解明し、企業ブランド価値の算出方法を見直すことを目的としている。このモデルの見直しにより、時価総額と企業ブランド価値の相関を高め、安定したブランド価値評価を実現する。ズレの構造については、業種ごとに異なると想定し、ズレの構造をいくつかのパターンに分類することを試みている。経産省モデルでは、価値評価の要因として、「価格優位性(PD:プレステージドライバー)」・「RD:販売数量安定性(ロイヤリティドライバー)」・「拡張力(ED:エクスパンションドライバー)」の3つが用いられている。これまでの分析では、業種ごとに、それぞれの要因の寄与度が異なることが示唆されていて、今後は、この寄与度により、業種をグループ分けし、それぞれのグループごとに、ズレの構造の解明にあたる。
この研究の長所は、複数の改訂モデルを提供することで、評価者(意思決定者)が対象企業や産業に応じて、適当なモデルを選択できることである。
杉原は、これまでの研究活動において、「オペレーションズリサーチ(Operations Research)」を基軸としてきた。オペレーションズリサーチは、社会や企業が抱える問題を数理的な手法で解決するための技法であり、既に国内外で、問題解決の事例が多数紹介されている。特に、問題の構造を分析した上で、数理的にモデル化し解析するという一連の手続きは、現在取り組んでいる研究テーマにおいても有用であり、今後の研究活動においても欠かせない。
一方で、対象とする問題の構造はますます複雑になり、構造の把握や数理モデル化の作業は、以前にも増して困難を極めている。今後、多くの研究協力者の協力を得て、活動を継続する一方で、研究者の経験や勘だけでは解決できない事態を想定しておくべきである。そこで、情報科学の分野を中心に注目されている「ディープラーニング(真相学習)」といった手法の導入を試行し、人間による問題解決の作業を支援する環境づくりに取り組む予定である。