新しい農業の形としてスマート農業が求められている。これは農地・農作物のデータを精密かつ分布的に取得し、データに基づいて各種農業用機器の自動制御を行うことにより、軽労化や農作物の収量及び品質の向上を実現する農業である。しかしながら、現在の農業におけるデータ計測方法は、数百平方メートルの農地に対して数ヶ所のデータを取得するのみに留まっており、データの不足分は農業従事者の長年の勘と経験で補っている状況である。この問題を解決するための分布的計測技術開発が課題となっている。
本研究では、分布データ計測と省スペース設置が可能である光ファイバセンシング技術を農業に用いる事が出来ないか検討している。光ファイバにレーザー光を入射すると、光の一部(後方散乱光)が戻ってくる。多数のパルス信号を送り、後方散乱光を解析することで光ファイバ自体をセンサとして活用することが可能となる。また、センサ部の光ファイバ素線は直径0.25[mm]と細く、保護層を装着したとしても農作業の邪魔となることはない。本計測技術では、計測間隔2[cm]で最長約数kmの計測が可能であり、必要となる電源も計測機器部のみである。一方で、通常の光ファイバセンサで計測出来るデータの種類は「温度」と「ひずみ」のみである。したがって、研究では農業環境パラメータである「湿度」・「栄養分」・「土中水分量」等のデータが計測出来るような光ファイバの構造開発を行なっている。現在は「湿度」計測用の構造開発を行なっており、吸水性材料を光ファイバにコーティングする事(図1)で湿度計測を実現できるか検証を行っている。
図2は、材料をコーティングした箇所が湿度変化によって反応している計測結果図である。これはコーティングした材料が水分を吸収する事で、光ファイバにひずみが加わり反応が現れる。また、材料の濃度よっても反応量が異なることが示されている。
図3は、湿度変化量と反応量の関係図である。湿度変化が増えるにつれ、反応量が増える(計測ではひずみが加わるとマイナス方向に反応が生じる)というリニアな計測結果が得られている事がわかる。今後は、この光ファイバで湿度をリアルタイム計測出来るアルゴリズムを構築していく。また、「栄養分」・「土中水分量」等のデータが計測出来る光ファイバの構造を検討し、マルチパラメータ同時計測の光ファイバを開発する。
本研究を共同で行っている企業(ニューブレクス株式会社)は、様々な分野への光ファイバセンシングの適用を行なっている。これは計測パラメータがどのようなものであろうとも、計測パラメータと「温度」「ひずみ」との関係性が得られる構造を開発すれば分布計測が可能となるからである。
現状、工業の分野においても点計測が多く、分布データについては解析といった手法でもとめられている。しかし、解析にはモデル誤差等が含まれるため、十分な解析結果が得られない場合もある。光ファイバセンシングのように直接的に分布データを計測出来る手法は貴重であり、正確な分布データがあれば工業機器のよりきめ細かい制御にも繋がっていく。本研究室では、今後、農業用マルチパラメータ光ファイバセンサの開発と並行して、工業用マルチパラメータ光ファイバセンサの開発も行っていく。