地球温暖化による気候変動により豪雨被害が多発する一方、今後は渇水被害も懸念されている。日本国内における近年の降雨特性からもその傾向が高まっており、50mm/h以上の猛烈な雨が降る頻度が増えていることが分かる。これまでの建築では、敷地に降った雨水は速やかに下水等へ流すのが基本であった。しかしながら、50mm/hを超えるような豪雨が降ると不浸透面が多い都市部においては下水の排水が間に合わずに浸水被害が発生する。雨水業界では「流せば洪水、溜めれば資源」という言葉がある。今後さらに深刻化すると考えられる洪水と渇水の問題を解決する方法の一つとして、建築物の屋根に降った雨水を貯留して生活用水として活用し、さらに雨水タンクへの貯留によって下水への流入量を減らして内水氾濫の緩和に繋げる雨水活用がある。雨水タンクへの雨水貯留は、雨水を水資源として利用する観点から考えると満水に近い方が良い。しかしながら、洪水抑制の観点から考えると空に近い方が良い。洪水と渇水両方の対策としての雨水活用を考えた場合、これらの相反する課題を共に解決しないと設置した雨水タンクの効果を最大限に高めることはできない。
IoTを活用した分散形雨水活用システム
雨水活用システムには利水と治水の観点で相反する稼働条件が求められる。しかしながら、XバンドMPレーダ(XRAIN)の様な短時間降水予測技術の進歩により、事前に雨水活用システム設置場所にどれぐらいの降雨があるのかが分かれば、降雨で集水される雨量が予測できる。その量に応じて、降雨イベント前に雨水タンク内の貯留水を適切なレベルまで排水すれば急激な降雨によるピーク流量の緩和と降雨後の貯水量の維持(満水)が達成できることになり、設備費をかけて設置した雨水活用システムの効果が最大限に発揮できる。また、近年様々な安価なデバイスやサービスが提供され始めているIoT技術を街中の雨水活用システムに導入し、一元管理して「雨水活用システムクラウド」のように運用すれば、河川水位情報等と合わせて内水氾濫等の防止に役立つことが期待できる(図1、図2)。
自動洗浄機能を備えた防災対応型家庭用雨水タンク
近年、地震等の被災時の生活用水確保の面から一般家庭における雨水利用への関心が高まっている。しかしながら、既存の家庭用雨水タンクには貯留雨水水質を一定程度以上に保つには定期的な雨水利用とタンク内洗浄が必須であり、行わない場合には貯留雨水が腐敗する可能性が高い。従って、既存の家庭用雨水タンクでは、突如発生する災害時に水質悪化によって雨水利用が出来ない恐れがある。その問題を解決するために電気等を使わずに水流を制御することで自己洗浄する新型の家庭用雨水タンクを開発した(図3)。
世界各国で新型コロナウイルスの問題が拡大している。この問題は数カ月前までは誰も予測できておらず、突然全世界規模の問題となった。洪水や水不足はこれほど急激に全世界には広がらないと考えられるが、我々の生活を支える水が十分に供給されなくなったり、また逆に洪水で街が浸水する内水氾濫が頻発するようになればその被害は計り知れない。現在の社会状況を勘案すると、地球温暖化による気候変動の大きな変化は避けられそうにない。
2018年には日本国内においても、地球温暖化による被害や災害を回避・軽減する対策づくりを後押しする法律「気候変動適応法」が施行されており、法律面からも今後の気候変動への対応が求められている。IoTを活用した雨水活用システムが数多く街中に設置されると、常時、非常時の水資源確保と内水氾濫緩和に大きな効果を発揮する。今後、街で雨水が普通に貯留され日常的に雨水が利用されるために、より効率的に清浄な雨水が貯留できるシステムを企業と協同開発する必要がある。