今日の情報化社会を支えるInformation and Communication Technology(ICT)基盤は、発展の一途をたどっており、我々が生活する上でICTは必要不可欠なものとなっている。しかしながら、我が国ではICT技術者の慢性的な雇用不足が生じており〔内閣府 年次経済財政報告 平成25年7月 第3章 経済活動を支える基盤 2. ICT関連産業の動向と労働需給より〕、平成26年6月に閣議決定された世界最先端IT国家創造宣言(平成27年6月に改訂)に、「初等・中等教育段階におけるプログラミングに関する教育の充実に努め、ITに対する興味を育むとともに、ITを活用して多様化する課題に創造的に取り組む力を育成することが重要」とされたことから、小中学校でのプログラミング教育の義務化が進み、これに伴い、各方面でICTへの興味・関心を高めるようなプログラミング体験イベントや教室が行われている。しかしながら一方で、テキスト入力によるプログラム開発、課題設定とその解決能力の育成等、次の教育段階である継続的な学習への参加については課題があり、工夫が必要との報告もされている〔平成27年6月 総務省 プログラミング人材育成の在り方に関する調査研究より〕。
本研究においては、これまで、特に文法を意識することなくプログラミングが行えるマサチューセッツ工科大学で開発されたGUIベースの開発環境であるScratchを用いた、複数種類の実機ロボットを選択的に制御できる教材(図1)を開発し、それを用いた体験授業の中で行ったアンケートの解析結果から、開発した教材が、プログラミング初学者に対し、一定の教育効果を上げることを確認してきた(表1~3)。しかし、この授業は1回の授業として実施していたため、あくまで初学者にICTに関する興味・関心を高めるまでに留まっていた。
そこで、本格的なプログラミングを習得するために不可欠となる、CUIベースのプログラミング学習への移行学習について研究を行っている。本研究テーマでは、開発してきた教材システムの一部である、GUI環境のScratchで作成したプログラムを、C++言語での実機ロボット制御プログラムに変換するソフトウェアを利用することで、GUIベースの学習からCUIベースの学習にスムーズに移行するためのプログラミング教程の開発を目指している。視覚的にプログラムの構造が理解しやすい、GUIベースでのプログラミング学習を通し、作成したプログラムのアルゴリズムを視覚的に認識することで、プログラミング学習において重要なアルゴリズムの修得を効果的に行えると考えている。合わせて、作成したプログラミング教程の効果を評価するためのアンケート項目についても、誘発的な質問事項は避けた心理尺度に基づく解析可能なアンケート項目の考案により、汎用的なアンケート手法の確立を図ることも目指している。
現在、蓄積されたデータの解析を進め、プログラミング学習における躓きポイントの導出、および、それらの躓きポイントにおける、事前のGUIベースのプロラミング学習が、対応するCUIベースのプログラミング学習に対する理解度を向上させるかどうかの検証を進めている。その結果、すべての躓きポイントではないものの、事前GUI学習による効果が確認された。
今後は、事前GUI学習を行うタイミング(例えば、半期ごとに事前GUI学習を行ったのち、次の半期で対応するCUI学習を行う場合、隔週で、事前GUIベースの学習を行ったのち、次の週で対応するCUIベースの学習を行う場合、さらに、毎回、直前に事前のGUIベースの学習を行い、その直後に、対応するCUIベースの学習を行った場合)における、理解度の違いについて検証を進めて行きたい。