ふくいPHOENIXプロジェクト
福井工業大学
menu
ふくいPHOENIXプロジェクト 異業種対談 恐竜×星空 時空を超え結びつく、地域ブランドの魅力
ふくいPHOENIXプロジェクト 異業種対談 恐竜×星空 時空を超え結びつく、地域ブランドの魅力

SPECIAL ふくいPHOENIXプロジェクト 異業種対談 恐竜×星空 時空を超え結びつく、地域ブランドの魅力2017.03.19

後藤道治(福井県立恐竜博物館 副館長)
中城智之(福井工業大学電気電子工学科 教授)

福井県のブランドコンテンツである「恐竜」、そして福井工業大学が「星空」をキーワードに研究を進める「ふくいPHOENIXプロジェクト」。スケールの大きい研究に取り組むお二人に「地域ブランド」をテーマに熱い研究者トークを交わしていただきました。

― どのような経緯で研究の道に進むことになったのか、お二人の原体験からお聞かせいただけますか。

後藤:僕は最初は天文をしたかったんです。北海道で育ちましてね。冬の夜に銭湯に行って、帰り道にタオルを振り回したらカチンと凍ったりするようなことがあって。見上げると星空がきれいで魅せられましてね。それで星座の名前を子どもの頃にインプットしたというのが原体験でした。

中城:小学校の時の担任の先生がちょっと変わった理科の先生でして。望遠鏡を持ってきて近くの公園で天体観望会をやってくれて、近くの公園に行ってひと晩中ベンチで寝っ転がるようなことが多かったんです。星を見上げてぼんやりするという体験が根っこにありますね。

― 星空という意外な共通点が明らかになりましたね。

中城:小学5年生の時なんですが、ふと「星空って広いな。自分は小さいな」って感じる瞬間がありまして。夜空を眺めているうちに自分を超えた「何か」の存在を意識して、その感覚の源を明らかにするような学問をやりたいと思ったんです。

後藤:天文をやりたいということで、高校の時に地学クラブに入ったんです。ある日、クラブで化石採集に行くことがあって、ハンマーをひと振りしたらすごく美しい化石が出てきた。その瞬間に面白いなと思っちゃって、一気に星空から地上に落ちたわけ(笑)。
化石は発見されないと、彼らが生きていた証が抹殺されるんですよね。みんな風化してボロボロになって無くなっちゃう。それをハンマーひと振りで救うわけですから。

中城:私の方は残念ながら、中学・高校と勉強に追いかけられてしまって天文のことは数年忘れていたんです。高校2年生の時に先生から進路を問われて「困ったなあ」と。授業を聞いていても面白くないなあと思ってましたから。微分とか積分とか(笑)。
それで「そういえば星の観測って面白かったな」と思い出して、調べてみたら地球物理学という分野があるということが分かったんです。小さい頃に(惑星探査機)ボイジャーの本を読んだ記憶もよみがえって、人工衛星を飛ばしてデータ解析をするような研究って面白そうだなと。

ふくいPHOENIXプロジェクト 異業種対談 恐竜×星空 時空を超え結びつく、地域ブランドの魅力

― 子どもの頃の原体験があっても、教科の得手不得手などの現実に直面するにつれ、夢を貫くのがだんだん難しくなるようにも感じますが。

後藤:高校時代ってゾウリムシと一緒だったんです。電極のON・OFFであっちへ行ったり、こっちへ行ったり。刺激と反応の世界で生きていた(笑)。クラブの顧問には「そっち(化石)の道には行くな」とも言われましたよ。でも、火をつけたのは先生でしょと。化石採集に連れて行って、ハンマー振ったらクラブにない完璧な標本が出てきた。だから火がついちゃってね。若気の至りで突っ走っちゃったわけですよ。

中城:学生の時に読んだ、『トム・ソーヤの冒険』の著者として有名なマーク・トウェインの『人間とは何か』という本がすごく衝撃的でして。「人間は機械で自発的に行うことは一つも無く、外からの刺激によって動くものだ」というようなことが書いてあるんです。人間の自主性や独自性というようなものはうそで、最初から与えられた機械が刺激を受けて動くだけなんだと。
初めて読んだ時は「この人はなんて救いの無い話を書くんだ」って愕然としたんですが、今思えば人間なんてそんなものなのではないかと感じますね。周りの人たちに生かされている存在と言いますか。

― 書物からの衝撃も受けながら、どんな学生時代を過ごされたのでしょう。

中城:思い込みの激しさと執着心の強さがある意味取り柄でしたね。根拠の無い自信がどこかにあって。「やればなんとかなる」っていう一種の勘違いとでも言いましょうか。まあ、親にそういうふうに育てられたんでしょうけども(笑)。でも、勘違いさせてくれる環境にいさせてもらったってことには感謝しか無いですね。
大学を出たら民間企業に就職できればと思ってたんです。そうしたら「理論屋さんじゃなくて、体を動かす観測屋さんがいるんだ」って声がかかりまして。観測をやっててアンテナに上ったりしてましたから。勘違いさせてもらいながらも、ありがたいタイミングでいろんな人に助けてもらって今があると言いましょうか。
―体を動かすことというのは、研究を続けていく上で大切な事柄なのでしょうか。

後藤:恐竜博物館で子連れの親御さんによく聞かれますよ。「子どもが恐竜の研究者になりたがってるんですけど、どういう勉強したらいいですか」と。そこで僕は即座に「しっかりと体育をさせてください」と答えるんです。親御さんはきょとんとしていますがね。化石の研究は、砂漠や極寒の地など過酷な環境で自分が作業しないといけないこともありますから。
その次に大事なのは家庭科。自分でご飯を作って、自分で裁縫して、自分で自分を管理できないとダメなんです。1人でテントに寝泊まりしながら、栄養バランスを考えて体力を維持しないといけないこともあるわけです。

中城:同感です。僕の場合、観測所を3つか4つ使う研究だったので、原付で100キロ走って観測所で1人でアンテナに登って1人でハンダ付けして、人がいなくてもそこで寝泊まりしてみたいなことがザラでして。体力と精神力が無いと、知識があっても気持ちが折れちゃうし、さっき言ったような勘違いもできないと思います。

― いわゆる理系科目よりも、体育や家庭科が優先されるというのは意外です。

後藤:もちろん、学校の勉強をまんべんなくやった上でのことですけどね。そこをおろそかにしちゃダメです。それが大学に入った時に道具となるわけだから。
それで、そばにいる子どもには「家に帰ったらお父さんとお母さんの手伝いをするんだよ。自分の部屋の片付けもするんだよ」って。これでお母さん大助かりですよ(笑)。

中城:学生は教員からテーマを与えられることも多いですけど、そのテーマについてどう研究を進めていくかというところで学生各自のキャラクターが表れますね。言われたことしかやらない人もいれば、自分で考えていろいろ動いていける人もいて。

後藤:面白いテーマが目の前にあるんだけど気づけないんだよね、きっと。そこは感性が豊かに育つことと関係しているように思いますね。

― 「生きる力」と言い換えてもいいでしょうね。

中城:「まんべんなく」というのは大事ですよね。僕の学生時代って90%くらいハンダ付けでしたけど(笑)、理学部なんで電気工学なんて全く教えてもらってないわけです。だけど観測装置を作らないといけない。先生からは「よく見て作れ」って言われて。1週間ぐらい泊まり込んで作るんですけど、機械って動かない時はうんともすんとも言わない。

後藤:僕も機械には怒ることが多くて。映像を投影する装置が動かなくなったとか、DVDプレーヤーが動かなくなったとか。殴ったら動くんじゃないかって思うんですけど「後藤さん……、昭和の機械じゃないんですから。ブラウン管と違いますよ」って若い人に言われてね(笑)。

中城:思い通りにいかない時、いかに「折れない心」を持てるかですよね。知識も大事ですけど、まずは折れない心。実は学生時代に折れた経験はいくつもありますが、そのたびにいろいろな方に支えられて少しは強くなったかなと思います。初めから強くなくともいいんです。中学・高校とバスケットボールをやっていて、まあさんざん怒鳴られましたけど、そういう経験も多少は生きてるのかなとは思います。

後藤:僕も中学校の時バスケをやってました。シンクロしてますね。中城さんとは、感覚や根っこが一緒のような感じがします。

― スポーツ系の部活動と研究との間には、目標から逆算して日々のタスクを組み立てるという共通項があるように感じますが。

中城:私は逆算は得意じゃないですね。研究でも私の指導教官は「とにかく進めるところまでは進め」という教えだったんですよ。「見えているところまでは速攻で行け」って。「どうなろうと、そこまで行ったらどうにかなるからとにかく手を離せ。今持っているこだわりを外せ」という教えでしてね。

後藤:そこまで信じられるのは、必ず道が開けるという確信があるからなんでしょうね。目に見えないものを信じられる人というのは、かなり深いところまで研究できる人のような気がします。僕はゾウリムシですから当然突き進みますけど(笑)。

ふくいPHOENIXプロジェクト 異業種対談 恐竜×星空 時空を超え結びつく、地域ブランドの魅力

― 後藤さんのバックボーンに星座の存在があることが何かしら影響しているのでは、とも思いました。

後藤:高校の英語の教科書にアイザック・アシモフの話がありましてね。相対性理論の話で内容は深く覚えてないんだけど、遙か彼方の星の光が何億年何十億年とかかって地球に届くというような話でして。
その時に「もし一瞬で向こうの星に行けるなら、その星から昔の地球が見えるだろう」と思ったんです。1億5000万光年離れている星に一瞬でテレポートできて、その時の地球が見える望遠鏡があれば、過去の様子、つまり恐竜が見えるわけですよね。

― 星空と恐竜とをつなぐ視点が興味深いですね。

中城:以前から、福井は恐竜も星空も両方体験できるまれな場所だなって思ってまして。地質もいろんな年代がまんべんなく出るので、そういう特徴のある場所から恐竜化石が出ているということをベースに地域のブランドを磨いていければと思います。

後藤:特化していくというのは大事ですよね。日本中探しても世界中探してもここしか無いっていうものをどう打ち出せるか。恐竜化石は日本中あちこちで見つかるようになっているので、恐竜だけではもう特化してはいない。次の一手をどうするかということです。

中城:ただ「地方創生」というキーワードだけで進めるのは違うのかなという気持ちもあるんです。出生率が上がらず東京に人が集まるという現状に対する抜本的な対策が無いまま、地域間競争をあおるようなことを言われる。限られたパイを取り合った先に本当に幸せがあるのかなと。潰し合って殺伐とするだけなのではと思うんです。
一つの処方箋としてあるのが、定住人口じゃなくて「交流人口」を増やすという考え方。何かしらの一つの価値を認め合った地域同士が交流して人が行き来する。人口をダブルカウントしちゃうわけです。個人的にはその方が地方に元気をもたらす話になるんじゃないかと思うんですよね。星空には交流の核となる魅力があると思います。

― 恐竜も交流人口増加の要素になり得ますか。

後藤:やり方なんですよね、きっと。恐竜は全国で見つかっているから、じゃあ、それをどうディスプレイするかという。例えば星空の話で言うと、福井の人は「夜になると星がきれいに見える」というのが当たり前なんですよね。ところが都会から来る人にとっては、星がきれいに見えることが非日常なんです。この「非日常性」がポイントなんですよ。

中城:非日常を打ち出す際、恐竜博物館があったり全国でもまれな地質があったりというのは大きいなと思っていまして。星がきれいなだけでなく、恐竜化石や珍しい地層もある。こういうところは少ないですよ。そういう点で奥越は面白い地域だなと。

後藤:面白さを共有するとき、研究者同士なら専門用語を使えばいいわけですけど、いろんな人に面白さを伝えていくためにはひと工夫する必要がありますよね。博物館での展示でも、研究者に対するのと同じ表現で一般の人に説明するということをやってしまいかねない。

― 研究者にも博物館学芸員としての素養が求められるということでしょうか。

中城:大学が地域に役立つことをするには、一人が両方の面を兼ね備えないと無理なんですよ。研究する人と伝える人が分かれていると、意思疎通がなかなかうまくいかない。研究者はもっと変わらないといけないですね。
偏見かもしれませんけど、専門知識がある人が伝える技術を身に付ける方がスマートなのかなと。伝える技術を持っている人が専門知識を身に付けるというよりは。

後藤:同感ですね。なぜやりやすいかというと、有り余る情報知識があるわけだから、あとはその表現の仕方だけなんですね。僕はそのことを学校の先生に学んだんです。先生はあの手この手で子どもたちに理解させようと努力している。ある時には例えを持ってきたり、ある時には教材を見せたりとね。あの手この手の使い分けというのは知識が無いとできないんです。

中城:昔とは変わってきていますが、一般的に言うと、研究の現場で伝えることの重要性が理解されていない場面がまだあるような気がします。伝えることも研究と同じように大事だと思いますね。

後藤:博物館にいらしている方に「この解説文いかがですか」って聞くと、「難しいですね」って言う人がいます。その中のいく人かは「知識が無いので解説文を読み解くことができない」という自虐的な感覚を持っていらっしゃる。博物館の「広く伝える」という役割をうまく機能させる工夫が必要ですね。

中城:僕も長い間専門用語の世界だけでやってればいいと思っていましたけど、今のような社会状況だと本当に伝わらないし理解されないし、いつかは足かせになるんじゃないかという危機感を抱いています。研究者はもっと変わっていかないといけない。

― 「伝えること」を意識される立場から、恐竜と星空を掛け合わせたプランをお聞かせいただけますか。

中城:「星空のきれいなまち」というまちづくりができないかと考えています。例えば大野では街灯りが上空に向かって漏れているのですが、そこまで上に漏らす必要があるのかなと。「星空のために明かりを消して」というと「街の発展を止めるのか」という話に捉えられそうですけど、工夫次第で両立はできると思うんです。

後藤:非日常という方向まで一気に話を振ると、病院などの必要施設を除いて、可能な限り大野の街灯りを一定時間落としてしまうという仕掛けもありかもしれないですね。その間に奥越の山々から昇ってくる天の川を撮影して、スピードを上げて再生した映像を全国で流す。「こんなことやったんだ」「街全体で電気を落とすなんて信じられない」というような話題になる。しかし、中途半端ならやらない方がいいので、腹をくくれるかどうかがカギでしょうね。

中城:奥越は自助努力でそれがかなりの威力を発揮するエリアだと思うんです。全国にはライトダウンイベントをやっているところはありますが、その時の空の暗さの数値を見ても近くの都市の影響を受けていて。

後藤:「ここまでやるか!」ってことが知れ渡るとみんな来るんですよね。最近話題になったアニメ映画で町が真っ暗になっていくシーンがありましてね。その光景を見た時に、これって非日常だよって。

― 実社会では、さすがに停電にまではできないですけども。

中城:街灯りを落とすだけなら自治体だけでできる話なんですよ。都会に近いところだと自分たちの一存だけではどうにもならないでしょうけど。こういう話を説明する機会を作って少しずつ理解していただくことになれば「俺たちもやってみるべ」ということになるのではと期待しているのですが。

後藤:ナレーションが入ってもいいですね。「広大な星空をご覧ください。私たちは地球という星の上でいろんな物質を使い回して生きているんです。恐竜の体を作っていた炭素・水素・酸素・窒素・リン……これらは皆使い回して私たちの体に入ってきているんです。そこには、あなたのもの私のものという境界は無いんです」というようなね。日本国内で、そういう世界観をアナウンスするようなプロジェクトをやっているところは無いと思う。

中城:奥越ならそれができると思うんですよ。都会には本物がないからどこかうそっぽくなる。終わるとすぐにストレスのかかる日常がやってくるわけですから。でも、奥越には恐竜化石やまれな地質というリアルがある。

― 日常的に目にしているものを非日常に転化して人を呼び込む感性を磨くにはどうすれば。

後藤:皆さんも海外旅行で経験していると思うんです。外国の街を歩いた時、家の前にあるほんの小さなポストにだってワクワクするじゃないですか。地元の人にとって坂道もゴミ箱も歩いてるネコもみんな日常なんだけど、旅行をしている私たちにとってはめちゃくちゃ刺激的なんですよ。

中城:交流人口の話にもつながるのですが、外から来た人とできるだけ接触することですよね。外的な刺激を与えてもらって、見慣れた日常が実は非日常になる可能性を秘めているんだと気付かせてもらう。
20世紀はとにかく街を明るくすることがよしとされてきたと思うんですけど、21世紀は資源の問題もあって暗くすることにも価値があるというような世界観を訴えるのは十分ありかなと。

後藤:ありだと思います。癒やしですよ。ストレス社会の中でどのようにして自分をリラックスさせられるかということに関心が向かっている。特に都会の人は。「クラゲ」と一緒です。巧みな演出で暗い水槽に浮かび上がるクラゲの泳ぐ姿に癒やされたい都会の人たちが、交通アクセスは悪かろうが、東北のある水族館みたいに年間数十万人も押し寄せる現象を見ても、うなずけますでしょう?! 恐竜博物館のほの暗い幻想的な雰囲気も然りです。

中城:ある人が「人間は暗い場所にいると、ものを考え始める」というようなことを言ってたんです。暗い場所にいると思考のベクトルが内部に向かうんですかね。暗さの文化とでも言いましょうか。
「暗さ」ばかりを強調するとネガティブイメージもあるから危険だということも聞いたんですけど、そこをうまく癒やしに結びつけられたり、恐竜のようなスケールの大きいものに結びつけられたりできるといいですね。福井のブランドである「禅」の世界観とも親和性が高いと思います。

後藤:夜空の広大無辺な世界に吸い込まれるような憧れというのを昔の人は持っていたんじゃないかと思いますね。特に日本人はそういう感覚を内在させているのではと。僕もその一人ですけど、実はみんなそういう感覚を求めているのではないでしょうか。

中城:それに応えるためにはやはり「本物」の存在が重要ですよね。本物から発せられる強い刺激が無いと。後藤さんのおっしゃる「刺激と反応」の世界ですよ。

福井と星空を結び、地域産業の進化や地域コンテンツの磨き上げへつなげていく「ふくいPHOENIXプロジェクト」。お二人の熱いトークから、悠久の昔から届いた自然からの贈り物にはまだまだ深掘りできる可能性があるということが分かりました。示唆に富んだお二人の対談を生かし、本プロジェクトはこれからも、次世代を担う福井の若い研究者にさまざまなワクワクを提供していきます。

Copyright © Fukui University of Technology, All Rights Resereved.