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黒田有彩さん(タレント)
黒田有彩さん(タレント)

INTERVIEW「好きなもの」を見つけ、続ける気持ちを大切にして 2020.03.31

黒田有彩さん(タレント)

「宇宙女子」をキャッチフレーズに掲げ、宇宙飛行士になることを目標に活動するタレント・黒田有彩さん。2020年2月に行われた「ふくいPHOENIXプロジェクトシンポジウム」のトークセッションではゲストとして登壇され、宇宙の魅力をたっぷり語ってくださいました。

黒田さんの目には宇宙や星の姿がどのように映っているのでしょうか。幼少期からこれまでを振り返っていただきながら、宇宙に惹かれたきっかけや、宇宙飛行士を目指すことになった経緯などとともに、次世代の福井を担う若者へのメッセージを伺いました。

無重量状態を味わいたい気持ちが、目標に向かう原動力

― まずは、子どものころの話をお聞かせください。宇宙への関心は子どもの時からあったのでしょうか。

黒田:『美少女戦士セーラームーン』が好きだったので、登場人物の名前であるマーキュリー(=水星)やマーズ(=火星)から惑星に自然と関心が向いていきました。星を見るのはもともと好きで、宇宙を眺めているとたくさん疑問が湧いてきたんですよね。

― 子供心にどんな疑問が浮かんだのでしょう?

黒田:今見えている星の光ははるか昔の光だというのを教えてもらったんですが、それがよく分からなかったんです。昔の光と言っても、今、自分の目には見えているわけですから。

でも、図鑑を見てみるとすごく離れていることが分かる。光にも進むスピードがあるから、光が届く限界があるということを知っていったりしましたね。

太陽なんて、図鑑だとページに入りきらなくてページの端に弧がギリギリ描かれていますよね。実際はすごく大きいのに、外に出て見てみるととても小さくて片手で隠せてしまう。すごく大きい物がすごく遠くにある。空間的な大きさも自分の想像をはるかに超えている。そういう物事にすごく面白さを感じていました。

― 大きい物への憧れが今の活動にもつながっているのでしょうか。

黒田:そうかもしれません。数字も大きいのが好きだったみたいです。家にあった算数の図鑑を見ると、一、十、百、千、万…とだんだん単位が大きくなっていって無量大数まで書かれている。自分が把握できる数字というのはすごく限定的なんだなと感じていたんです。

算数の時間に数を0で割る話を聞いた時にもワクワクを感じました。例えば、1を0.1で割ると答えが10になって、0.01で割ると100になる。割る数をどんどん小さくしていくとついには無限になってしまう。無限というものの概念にワクワクしたんです。自分が捉えきれない物事を、8の字が横たわっているもの(笑)が表しているんだと。

自分の物差しなんてすごく小さなものであって、この世界はとても広がりがあるということ、そして1と0というとてもシンプルなもので無限の概念を表せる潔さみたいなものを「1割る0」から教えてもらいましたね。

― その後、中学時代に作文コンクールの副賞としてNASAを訪ねられました。この時の経験はやはり衝撃的でしたか?

黒田:そうですね。大きな物が打ち上がるというところに単純に感動しました。実物大の模型も見て、「これが空に飛んで行くのか!」と感じたり。映画やテレビで見ていた物が自分の目の前にあるという高揚感で、「宇宙、すごい!」という衝撃でした。

一見すると張りぼてみたいな物が宇宙に行っていたりするんですよ。「こんなブリキのつぎはぎが宇宙に行ったんだ!」って感動してしまって。

― 「ブリキのつぎはぎ」に見えたとは意外です。ハイテクの塊みたいに見えるのですが。

黒田:宇宙に人類を送るという前代未聞の目的を果たすために、そして当時の時代の勢いも相まって、宇宙に行ったものからエネルギーを如実に感じたんですよ。「いろんな人の試行錯誤」が詰まっているのを肌で感じて、やっぱりすごいなって。

― その後高校に進み、お茶の水女子大学理学部物理学科へ進学されました。どのような観点から進学先を選ばれたのでしょう。

黒田:自分が兵庫の出身なので、なんとなく東への憧れがあったんですね。東へ東へたどっていったらお茶の水女子大学というのがあるんだと分かった。調べてみると歴史もあるし、東京で独り暮らしをするとなっても家族が変な心配をしないだろうと思ったんです。

国立天文台と一緒に研究していたりするというのも魅力でしたね。大きな特別な研究施設を持ち合わせている大学ではないんですけど、東京にあって、歴史もあるということで他の研究機関との連携が取れていたんです。

― 東京の大学に進んだことが現在のタレント活動にもつながったというわけですね。在学中にJAXAの宇宙飛行士に応募されたとも聞きました。

黒田:2008年、大学3年生だったのかな。募集要項には大学卒業後3年以上の実務経験が必要と書かれていたんですけど、「気持ちは伝えないと分からないじゃない?」という若さゆえのものがあって(笑)、出してみました。

応募するには、たくさん資料を集めないといけないんです。戸籍謄本などの身分証明書も含め、自分が何者であるのかという書類をそろえる必要がありました。応募する時点であきらめてしまいそうなくらいのボリュームで。

― 聞くだけで作業の大変さが伝わってきます。

黒田:元JAXA宇宙飛行士の山崎直子さんもインタビューで答えられていたんですけど、まずはそれをクリアするくらい本気じゃないといけないんです。だから、どれくらい本気なのかっていうのを見られていたんだろうなと思いました。

それと、これは後で知ったことですけど、応募要項に少しでも沿っていないグレーな部分があったらアウト。経歴がどんなにすばらしくてもダメなんです。宇宙飛行士の試験は思いのほか厳しいということを知りましたね。

― そういう出来事を経てもなお、宇宙飛行士を目指していらっしゃいます。ブレない力で一つの物事に突き進んでいける原動力はどこにあるのでしょう?

黒田:実はけっこうポキポキ折れてたり迷ったりしてるんですよ(笑)。

宇宙飛行士になりたいという「山」は目の前にあって、そこに向かって山登りはしているんですけどね。山登りの途中ですごくきれいな鳥に出会って「もっと知りたいな」と思うようなこともあるし、歩くのに飽きてきて後ろ向きに歩いてみたらどうだろう、とより楽しめる工夫をしてみたり、という感じでしょうか。

だから黙々と頂上に向けて歩いているわけでなくて、なかなかまっすぐ登れてはいない気がします。山登りの途中で出会った人たちに「こっちの道に行ってみたら?」とか「これ面白いよ」とか紹介してもらえたり、自分で何か気付きを得たりしているうちに、ちょっとずつ頂上に近づいているかもしれないなという歩き方なんです。

― JAXAの宇宙飛行士は2008年以来募集がないですよね。いつ募集があるか分からないものに向けて準備を整えていらっしゃいます。

黒田:日本では今まで国の機関であるJAXAが宇宙飛行士の募集を行っていましたが、これからは民間企業が民間人向けのサービスで宇宙飛行士を募集するようになるかもしれません。例えば、宇宙旅行のフライトアテンダントみたいな職業だったり。いろんな可能性が広がっていく分岐点の時代に立っていると思うんです。

ここまで準備を進めてこれたいちばんの原動力は、宇宙に行って地球を見たいという気持ちです。そして無重量状態ももちろん味わいたい。重力から解放された経験はないですからね。

― 人との出会いは、宇宙飛行士という「山」に向かう上でやはり大きな支えになっていますか?

黒田:そうですね。私がお会いした宇宙飛行士の方は、みなさんすばらしい方ばかりです。だからこそ宇宙飛行士に選ばれているわけなんですけどね。そしてその周りにいらっしゃる方もまた尊敬すべき方々です。

そういう人間力がある方たちと出会えると、この「山」に登ることはマイナスであるはずがないと自信を持って感じることができる。目標に対する迷いはなくなりますよね。

タレント・黒田有彩さん

「与えられた時間すべてを楽しもう」と思えた方が、絶対に得

― ところで、宇宙の魅力を伝える活動をされている立場から伺いたいのですが、理系科目の苦手意識はどのようなことから生まれると思われますか?

黒田:理科にしても数学にしても式を立てて計算をすることがつきものですよね。苦手意識を持つ方は、それを解くことで人生に何の足しになるのだろうと感じるのではないかと思うんです。

私たちが目や耳などの感覚器で捉えられる物事って本当に少ないんです。例えば視覚だと私たちは可視光線しか見えない。エックス線などほかにもたくさんの種類の光があるのに、私たちは可視光線しか認識できないわけです。

でも、物理を学ぶとその「見える範囲」がぐっと広がるんですよ。自分では捉えられないけれど、物理の仕組みを知ることで目に見えないところが補われるんですね。

人って分からないことが出てくると不安な気持ちを抱いたりしますよね。人生においても将来に対して漠然と不安になったり。でもそれが「可視化」されれば、もしかしたら将来を俯瞰して見ることができるかもしれない。物理学はその仕組みの元の元ではないかと思うんです。

― 人の生き方そのものを成り立たせているのが物理学であると。

黒田:生物も化学も地学も、すべての自然科学は物理の法則によって成り立っているんです。物理の法則を知ることで、物が落ちるのは当たり前という感覚もすごくキラキラして見えてくる。それを解き明かしてきた先代の人々へのリスペクトが自ずと生まれるんですよね。

地球での物理法則を私たちは当たり前だと思っているわけなんですけど、実はどの宇宙空間でも違う重力の星のことであっても、同じ式で解き明かせてしまうのはすごい発明だなと思うんです。

― 宇宙空間でも同じ式が通じるとは、物理学に対する認識が変わりますね。

黒田:数式への恐怖を持っている方もたくさんいると思うんですけど、数式というのは先人からのメッセージで、とてもシンプルでとても美しいメッセージだと思うんです。私はポルトガル語がまったく分からないですけど、ポルトガルでもたぶん数式は同じでしょうし、何の話をしているかも分かると思うんです。

平安時代に起こった物理現象も、地球が滅びる時の物理現象も一緒なわけですよね。思ってもいないところで共通項を見いだせたり、当たり前に見えている現象を奇跡に見せてくれたりするものが物理学の魅力だと私は思います。

― 当たり前をキラキラとしたものに見せてくれるというのは、まさに黒田さんの活動そのものですね。シンポジウムで話されていた、衛星活用とエンタテインメントとの結びつきともつながります。

黒田:講演や出張授業ではいろんな感想をいただきます。以前、修学旅行でNASAやJAXAに行けるという、スーパーサイエンスコースのある私学の高校で話をしたことがありました。最初はほぼ全員が「NASAとか興味ないです」って感じだったんですけど、授業をした後に聞いてみたら「めっちゃ行きたくなりました」と言ってくれて。

よく分からないから毛嫌いしていた物事について、ちょっとだけ向きを変えて「実は面白いんだよ」と見せてあげることでこんなに興味って変わるんだなと。子どもたちのそういう反応は記憶に残りますね。

― では視点を逆にして、学ぶ側の姿勢を切り口にするとどうでしょう? 物事の見方や受け止め方について何かアドバイスがあれば。

黒田:授業や講義の時の座り方ひとつで変わると思うんです。昔の自分のことを言うみたいですけど、学生の時ってその日の気分や授業に対する興味の度合いで身を乗り出すように聞いたり、斜に構えちゃったり、寝ちゃったり(笑)しちゃうでしょう。

今思えば、「もったいないことしたなあ」と自覚できているんですけど、「その時間すべてを楽しんじゃおう」って思えた方が何にしても絶対に得なんですよね。自分の周りで起こるいろんなことに対して消極的でいるのはもったいないなあと思うんです。

人は新しいことに対して苦手だなと思ってしまいがちなんですよね。分からないことに対しては閉ざした方が実際に楽なので。何か1個でも、ちょっとだけ背筋を伸ばしてみたり、ちょっとだけ気持ちを変えたりすることで返ってくる光の量が変わるような気がします。

― 最後に、ここまでのお話も踏まえながら、福井という土地でこれから頑張ろうとしている若い人たちに応援のメッセージをいただけますでしょうか。

黒田:本当に何でもいいので「好きなもの」を見つけてほしいと思います。科学に直接関わることでなくても、例えば人と話すことだとか、イラストを描くことだとか何でもよくて。

その「好き」の気持ちを周りの人に言ってみたり、継続したりすることを大切にしてほしいですね。そうすると、その思いの周りに集まってくれる人が増えて、「好き」の気持ちが星のように輝き出すと思うんです。みなさんの頑張りを応援しています。

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