熱中時間

FUTの人たちの最高の
時間をインタビュー
FUTの人たちはなぜ熱中しているのか。熱中するものだけが感じられる最高の時間とは何か、に密着する。

No.116
工学部機械工学科 教授
岩野 優樹

theme:多様な課題を解決するロボットの可能性に挑戦

中学生のときテレビで目にしたロボットに魅了され、機械工学の道を歩んでいる岩野教授。人々の悩みや困りごとを解決したいと、レスキューロボットや草刈ロボット、月面掘削ロボットなどの研究開発に取り組んでいる。これらの開発ポイントをうかがうとともに、ロボット作りのおもしろさや今後の期待について語っていただいた。

ロボット作りの魅力は、思い描いた動きを形にできること


ロボットといえばテレビで見るアニメロボットがほとんどだった中学時代、「NHK高専ロボコン」で、箱を積み上げるロボットの動きを見て衝撃を受けたと語る岩野教授。「本物のロボットが動いてる!しかも、作ったのは学生さんなんだと驚きました」。このときの感動をきっかけに、地元大阪の工業高等専門学校機械工学科に進学し、ロボット作りを開始。2年生から毎年「高専ロボコン」に挑み、4年生までは予選の「近畿地区大会」で敗退したが、5年生で2勝して全国大会へ。「花開蝶来」のテーマの下、プランターに花を咲かせるロボットを作り競い合った。「ちょうど大阪へのオリンピック招致活動が行われており、私たちのチームは五輪をモチーフにした花を作って出場し、結果はベスト8。私は最終学年でしたから本当に感激しました」と当時を振り返る。

卒業後は大学3年への編入を希望していた岩野教授だが、受験勉強に集中するはずの5年生の夏休みも毎日学校でロボット作りに専念。それほど夢中になったロボットの魅力は、「思い描いたアイデアを形にでき、予測した通りに動いたときの喜びは何事にも代えがたい。その陰には数多くの失敗や絶望がありますが、だからこそ成功したときの感動は大きい。それが1番ですね」と熱く語る。求める動きを実現する方法がいくつも考えられる中で、形や重量、強度などの要素を勘案し、形作るのが難しくもあり、同時におもしろいところだという。

災害現場等で活躍する「レスキューロボット」を開発

編入した滋賀県立大学から更に大学院へ進み、所属した研究室では福祉関係の機器の開発に取り組んだ。その傍ら友達や先輩とともに参加したレスキューロボットコンテストで出会ったのが、大会の実行委員長を務めていた当時京都大学の大須賀先生だった。「これから必要性が高まるレスキューロボットの研究開発を一緒にやらないかと声をかけていただき、ちょうど大学院修了後の進路を考えていたときでもあり、先生の下で研究しようと決心しました」。

本格的にレスキューロボット開発に取り組んだ岩野教授が製作したのが「救助支援型担架システム」である。「倒れている要救助者を担架にのせるのは2~3人がかりです。これを消防隊員や一般の人が1人でも行えるような仕組みを考えました」。このシステムは、上下に取り付けたクローラーを回転させながら要救助者の下に押し入れ、体を持ち上げずに担架にのせ、その後、下のクローラーだけを動かし運ぶことができる。階段の上り下りも可能で、消防隊員のレスキューツールの1つとして実用化を目指し研究を継続中だ。

「草刈ロボット」を進化させ、人々の草の悩みを軽減したい


約10年前、テニス部の学生が「コート周りの草むらに散らばったボールを探すのがたいへん。草刈りできるロボットがあるといいよね」と話したのがきっかけで開発したのが草刈りロボットだ。安全性を考慮した「バリカン型」は、複数のハサミ状の刃を2段に並べて装着。上段の刃が動いて草を切断するが、静止状態の下段の刃が上段の刃より長いため、上段の刃が人や物に接触することはない。一方、刈り取った草が前方にたまりロボットの進行を妨げるのを解消しようと開発したのが「フレイル型」である。複数の刈刃を取り付けた軸を高速回転させ、刈り取った草を粉砕しながら進むため障害は発生せず、草を回収する必要もない。


また、新たに取り組んでいるのがAIを活用した自律移動型の草刈りロボットである。前方にカメラを付け、AIで認識した草の量に合わせて回転数を変えながら進むため、バッテリーの消費を抑制できる。「さらに、草の状況を3次元で把握するセンサーを併用し、生えている場所を目指して自ら刈りにいくシステムの研究に着手します」と岩野教授。時間と労力を要する草刈りに悩む人は多く、さらなる進化が期待されるロボットだ。

人類の未来につながる「月面掘削ロボット」


福井工業大学は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と提携し、2020年度から「ふくいPHOENIXハイパープロジェクト」を進めている。あわらキャンパスに高性能の13.5mのパラボラアンテナを設置し、地球近接から月軌道までの人工衛星運用を支援する取り組みだ。「このプロジェクトに、ロボットを活用して何か協力できないか」と岩野教授が進めているのが「月面掘削ロボット」の開発である。

月面は砂地のため、掘削すると蟻地獄のように周囲の砂が滑り落ちて穴が埋まってしまう。しかし、このロボットは、装置の外側に巻きつけたチェーンが全て同じ方向に回転するため、周囲に滑り落ちてくる砂の圧力を利用して掘り進むことができる。「今のところ月の成り立ちを探る地質調査が主な目的ですが、将来、月に人が住むことを視野に入れると、家を建てるための掘削ロボットが必要になってきます。大型の掘削機を月へ運ぶには大きなコストがかかりますから、1つのモーターで全部動かせる軽量な構造にしています」。今後、宇宙開発での活躍が期待されるロボットだ。

作る責任と、ロボットの無限の可能性


長年研究を続けていると思いがけない事態が起こることもある。農業関係者との共同研究で、長野県の農地で草刈ロボットの実験を行った際には、それまで経験がないトラブルが発生した。また、気温が非常に低い状況で異常が発生したこともあるという。これらを踏まえ、「学外の現場で正常に作動し、多くの人に感動していただけたときは研究者冥利に尽きます。しかし一方で、さまざまな状況で使用されることを想定した上でなければ世に出してはいけないという責任を感じています」と語る。


世界の多種多様なロボットや近年のAIの進歩を見るにつれ、「ロボットにできないことはないのではないか」と話す岩野教授。人間が行う仕事の大多数をロボットが代替できるようになる可能性が大きいとも。「その中で想像力を働かせ、こんなロボットがあったらよいのでは、と考え形にしていくのが我々の仕事であり、これからのエンジニアに求められる能力だと思います」。最近では、高校生と交わしたSDGsの話しをきっかけに、砂浜を自由に動き回り、漂着ごみを集めるロボットの開発を考えているそうだ。さらに、「福井に来たので、除雪ロボットも開発したいですね。草刈ロボットの刃を取り替えて冬は除雪に使用できるようにすれば1年中使えます」とアイデアは尽きない。



学年学科名等は、取材時のものです。