熱中時間

FUTの人たちの最高の
時間をインタビュー
FUTの人たちはなぜ熱中しているのか。熱中するものだけが感じられる最高の時間とは何か、に密着する。

No.98
環境情報学部 経営情報学科 教授
木森 義隆

theme:コンピュータによる画像情報処理技術の開発で医療に貢献

私たちは画像を通してさまざまな情報を獲得し、判断しながら生活している。この人間の能力をコンピュータに与え、画像情報を解析するシステムを開発しようと取り組む木森義隆教授。「人の役に立つ研究」を目指して力を注ぐ「医療画像の情報処理技術」の研究開発についてうかがった。

バイオイメージ・インフォマティクスで生命現象を客観的に解析

木森教授の専門分野である「バイオイメージ・インフォマティクス」は「生物画像情報学」と訳され、生物学や医学と画像情報学が融合した比較的新しい研究分野である。生物学や医学の現場から得られる画像データには多様な生命現象の情報が刻まれている。それらを数値化し、客観的に解析するためのコンピュータ技術を開発しようというのが「バイオイメージ・インフォマティクス」である。
木森教授が画像情報の数値化の重要性を認識するようになったのは、大学院後期課程で研究に励んでいるときだった。「私が所属した研究室では、電子顕微鏡を使って生物の細胞を調べ、例えば、どこにどのようなたんぱく質が発現し、その形がどうであるとか、どのように結合しているかを議論していました。そして論文に著す際は、目で見た画像の説明を言葉で記していたのですが、それでは観察者の主観による部分も多いため、画像に現れている形状などを数値で表す定量化の手法を作ろうとしていました」。
このようにスタートした定量化を基本とする画像処理手法に、機械学習やディープラーニング(深層学習)などのAI(人工知能)技術を組み合わせ、医療画像の情報処理技術を開発する研究へと発展させたのである。

医療画像診断のサポートシステム構築を目指し、AIとデータベースを活用


医療の分野こそ、バイオイメージ・インフォマティクスを活用し、画像情報を数値化した定量的な解析が必要だと語る木森教授。「現在、レントゲンやCT、MRIなどの画像診断は医師が目視で行っていますが、目視ではやはり病変を見落とす可能性があります。また、病変の有無はわかっても、進行度合いなどの判別は難しい。そこで画像を数値化してコンピュータで画像診断を行うことができれば、医師の目視診断をサポートできると考えました。そして、そのような医療画像診断のサポートシステムが開発されれば診断エラーが減少し、社会のさまざまな場面に波及効果をもたらすと思っています」。

木森教授のコンピュータによる医療画像診断の研究開発には、AIの技術と、データベースから入手した大量の画像データが活用されている。「例えば、がんに関しては、腫瘤などの病変が良性のものか悪性のものかという分類、さらに、どの程度進んでいるかというクラス分類をAIに行わせようとしています。そのために大量の画像をAIに読み込ませ、“これは良性”“これは悪性”といった情報をあらかじめ学習させます。これにより、入力された情報を識別する計算式がAIに与えられ、新たな画像を入力したときに、それが悪性か良性か、どのクラスに該当するのかといった分類がある程度できるようになるのです」。
AIの学習には大量のデータが必要だが、現在のところ、この学習で使用する画像データが得られるのはがんの画像が中心のため、木森教授の研究も肺がん、乳がんなどのデータを活用して実施されている。

病変領域を強調する技術を開発。医療画像診断の発展に期待

木森教授が、コンピュータによる医療画像の処理技術について研究を重ね開発に至ったのが、病変領域を見やすく強調する技術である。強調によってどのような画像に変化するのだろうか。マンモグラフィ(乳房エックス線撮影)によって得られた画像を指し示しながら説明してくれた。
「ここに、①、②、③、④と4つの画像があります。①の印の部分に腫瘤がありますが、全体が白っぽい中に同じように白い物として映っているので、目で見てもわかりづらい。しかし、画像にコントラストをつけて病変領域を強調する処理を行えば、腫瘤の存在がはっきりわかります。この過程は、①から②そして③の順に進みます。③のより白い領域が、病変として推測された箇所であり、その領域の輪郭を①に重ね合わせたものが④となります」。
確かに、①と④を見比べると病変の候補領域が一目瞭然である。
「現在、診断に使われているのは①の画像のみです。そのため、腫瘤を見落としてしまう可能性がある。しかし①に、コンピュータから得られた④の画像も加えて医師が診断することになれば、見落としの恐れは少なくなると考えられます」。
人の目に委ねられていた医療画像診断が、コンピュータによって処理された画像のサポートを得て、より精度の高いものとなっていく。画像診断の画期的進歩が期待される研究成果といえるだろう。



画像データ
MIAS ディジタルマンモグラフィデータベース
http://www.wiau.man.ac.uk/services/MIAS/MIAScom.html)(イギリスのマンモグラフィ画像解析学会)

医療画像の多様性と、AIの見えない世界に挑む

医療画像の処理技術を開発するに当たって避けられないのが、対象が生命現象であるがゆえの多様性をいかに分類・整理していくかである。画像処理の技術は、工業製品に発生する亀裂などの欠陥検出にも用いられるが、このような規格品に生じる欠陥はある程度パターンが決まっている。しかし医療画像に映し出される病変は、例えば同じ部位のがんで、同じステージだとしても、その形状は千差万別である。そのため、病変をクラス分けするための統一的な特徴をコンピュータが見極められるように分類するのは難しい。さらに困難を極めるのが、クラス分けを実行するAIに対して行う学習方法である。「人間が病変を分類するときは、その形の特徴などを、意識的あるいは無意識に抽出して分類していますが、そういう人間の判断基準をいかにAIに覚えさせるのか。正解が見えない中でトライ&エラーを繰り返しています」。

また、解決すべき課題もある。それは、AIの判断基準を明確にすることだ。「AIが画像を分類し、その結果が出てくるわけですが、例えば、腫瘤が良性か悪性かといった分類がどういう基準に基づいて行われたのか、現状では明確にはわかっていないのです。AI、つまり人工知能がその中でどのように機能しているかはブラックボックスといわれており、特徴の把握や分類の操作が、画像のどういう部分に着目して実行されたのか把握できていない。出てくる結果の根拠がわからないので、特に医療画像の場合は、本当の診断とは言い難い。ですから、判断基準がわかるAIを用いた画像診断システムを構築することが今後の目標です」。
これらの課題を乗り越え、開発が前進すれば、今後、医療をはじめ他の分野と連携した取り組みも視野に入ってくるに違いない。医療、そして社会への貢献につながる研究が静かに熱く続けられている。



学年学科名等は、取材時のものです。