熱中時間

FUTの人たちの最高の
時間をインタビュー
FUTの人たちはなぜ熱中しているのか。熱中するものだけが感じられる最高の時間とは何か、に密着する。

No.95
環境情報学部 環境食品応用化学科 教授
柏山 祐一郎

theme:これまでの研究活動と福井への思い

福井県版ノーベル賞とも言われる福井県科学学術大賞において、今年初めて創設された「若手科学学術賞」を受賞した柏山かしやま 祐一郎ゆういちろう教授。受賞した研究テーマは「クロロフィルの無毒化代謝」。現在の研究に至ったいきさつや、研究者として、そして指導者としての思いをうかがった。

「進化」への探求心によって進んだ研究

 クロロフィル(「葉緑素」とも言われる)は、植物などが光のエネルギーを利用する光合成において重要な役割を担う分子である。このクロロフィルが吸収する光のエネルギーを用いることで、二酸化炭素と水を材料に有機物がつくられる。有機物は光合成生物自身を含めた多くの生命の活動に必要なエネルギー源である。多くの生き物は光合成生物を栄養源にして生きてきた。地球生物圏はクロロフィルに支えられているといっても、言い過ぎではない。光合成の仕組みがこの地球に生まれたのは、およそ30億年前。柏山教授は、そんなかつての地球の姿に思いをはせる研究者のひとりだ。「幼少の頃から、生命のあゆみ、つまり『進化』に興味を抱いてきました。太古の風景を見てみたいという夢を追い求めながら、研究に取り組んできたのです」。
 柏山教授が所属しているのは環境食品応用化学科。研究テーマのクロロフィルは、海洋や湖沼に大量に存在しているCPE(シクロフェオフェルバイドエノール)という物質と構造が似ている。昔の地層にもたくさん含まれているCPEは、そもそもどんな生物が、何のためにつくるのか。そんな疑問を抱いたことが現在の研究につながった。
 クロロフィルは光合成にとって必要な物質であるが、不用意に光にさらすと強い毒性をもつ「活性酸素」を発生させてしまう(これを「光毒性」という)。今回「若手科学学術賞」を受賞した研究では、“生物がクロロフィルを光毒性のないCPEに変えて処分するメカニズム”を発見し、そのメカニズムが多様な生物の系統に広く存在することを明らかにした。「我々の祖先である生物は、クロロフィルを無毒化するメカニズムをもつことで、クロロフィルを含んだ栄養価の高い光合成生物を捕食できるようになった。そのことが以後の進化にとって重要な要素になったと考えられます」と、今回の研究の意義を強調する。

研究者として、指導者としての思い


 柏山教授はクロロフィルや光合成という生物学的なテーマを扱っているが、もともと生物学出身の研究者ではない。化石の研究からはじまり、多くの研究分野を横断してきた。その中で「進化」への探求心は変わることなく、「なぜ化石が地層に残るのか」など、研究の途上で生まれた疑問やテーマに従い、必要に応じてさまざまな分野を渡り歩いてきたという。「自分は、ある意味“異端”なのかもしれません。研究者として、それぞれの分野の常識にしばられることなく、『誰もやっていない研究をし続けたい』という思いを常に持っています」と語る。これまで数多くの分野を渡り歩く中で、それぞれの分野に特徴的な観点や視点、考え方を吸収し研究に活かしてきた。多分野にわたる広い人脈も、柏山教授の強みとなっている。今回の研究でクロロフィルの光毒性に注目したことも、化学分野の師匠とも言える研究者に相談をしたのがきっかけだったという。このように柏山教授の研究では、その広い人脈を生かし「共同研究」のかたちをとることが多い。「共同で行うことで、自分では思い付かないアイデアを取り入れることができ、研究が一気に進展することがあるのです」。学際の横断と他の研究者との協働。新しい知見を取り込むことで、柏山教授の研究も進化してきたのだ。
そのような自身の経験から、教え子たちにも広い視野を持って研究に臨んでほしいという思いを抱いている。しかし、自分が取り組んでいる分野だけに目が行き、視野をなかなか広げられない学生も少なくないという。「普段学生と接する中で、自分たちが“どれだけ狭い範囲を扱っているか”というのを理解し、多角的な考え方や視点を持ってもらうよう、心がけています」と柏山教授は話す。また、研究について指導する際は細かく指示を出すことなく、学生たちが主体的に行動するよう促している。「まだだれも理解していないことがあるという状況を認識してもらうと同時に、目の前のことについて“何故、どうして”と疑問をもつクセを身に付けてもらいたいですね。それが科学者として必要な態度だと思っています。あと、失敗することも大事です。研究は成功ばかりではありません。失敗から学ぶことが多いので、失敗を恐れずに様々に挑戦して欲しいと考えています」。

50年後も影響力をもつ研究を

 研究者としての目標は、『50年後も次の世代に影響をもつ研究を残すこと』だと柏山教授は話す。「これまで培ってきた人脈やネットワークを活かして、独自性があっておもしろい研究を生み出していきたいです。その中で、研究者同士をつなぐハブとして活動することも、自分の役目だと思っています。そして、私の研究成果をもとに次世代の科学者たちがもっとおもしろい研究を行ってくれることを願っています」。
 また、福井で生まれ育った柏山教授には、夢見ている「福井の将来の姿」があるという。「私がかつて研究の場としていたアメリカでは、福井のような地方のエリアにも世界的な研究拠点があったりします。この福井にも世界の中で評価される研究拠点があればいいなと考えています。その周辺に学生たちや研究者たちがあつまり、福井の中で文化としての“科学”が今よりもっと根付く。そんな未来に向けて、少しでも貢献できればと思っています」。福井県内では現在、学会から注目を集め、全国的な関心が寄せられている研究が進行している。勝山市の福井県立恐竜博物館における考古学的研究、FUTの「ふくいPHOENIXハイパープロジェクト」による宇宙開発。そして、柏山教授の研究成果はもちろん、その熱くエネルギッシュな態度や言葉から、福井での科学的研究がますます発展していく未来が垣間見える。



学年学科名等は、取材時のものです。