熱中時間

FUTの人たちの最高の
時間をインタビュー
FUTの人たちはなぜ熱中しているのか。熱中するものだけが感じられる最高の時間とは何か、に密着する。

No.91
工学部 原子力技術応用工学科 放射線応用コース 4年
矢野 尊逸
theme:安心を届けられる技術者を目指す

theme:安心を届けられる技術者を目指す

新型コロナウイルスの影響の余波で、人影もまばらなキャンパスに姿を見せた矢野さん。4年間の原子力技術応用工学科での学びを経て、この春、対面での面接もままならぬ厳しい就活状況の中、東京の電力会社に就職を決めた。今は会社に赴く日を期待しつつ、卒業研究に勤しむ毎日を過ごしている。

原発隣接地域で「学び」を志す


矢野さんが原子力の道を志すようになったのは小学校6年生の頃。東日本大震災での、福島第一原発事故のニュースがきっかけだった。京都府舞鶴市出身の矢野さんは、それまで意識することのなかった隣県・福井の原子力発電所への見方が変わったという。「最初はただ怖いと思いましたが、近隣地域にいながらそれまで原子力や放射線のことを何も知らなかったことに気づきました。立地県の人であればもっと知る機会があったと思いますが、距離が近いにもかかわらず、知ることがなかった。原子力や放射線のことを正しく学ばなければ、みんなが安心して暮らせないのではないかと考え、本格的に学びたいと思うようになったんです」。そして全国でも数少ない、原子力を学べる学科のある福井工業大学に進学した。

広範囲な学びから生まれた「想い」


一口に原子力や放射線と言っても、エネルギーからレントゲン写真やCTスキャンなどの医療分野への応用まで、カバーする分野は多岐にわたり、実は私たちにとって身近な存在だ。矢野さんは原子力技術応用工学科で、技術的な専門知識のほか、環境やエネルギー問題、原子力をめぐる法や倫理、社会学まで総合的に学び、原子力についてのあらゆる知識を得るうちに、この身近な存在である原子力や放射線のことをもっと知ってもらいたい、という思いを抱く。「放射線は、自然界でも常に降り注いでいるもので、ことさら恐れるものではないんです。こうしたことを知ってもらって、安心に繋げてもらいたい」。

一方で、放射線技術の中でも、原子力プラントの設備診断などを行って事故を未然に防ぐ非破壊検査など、原子力発電に直接関わる技術を学ぶのに特にやりがいを感じたという矢野さん。「実際に手を動かす作業は、好きで向いているなと実感しました」。
2年生では『第2種放射線取扱技術者』の資格取得に挑戦した。放射線に関する広範な知識が求められる試験で、その時は取得を逃したものの、勉強法などを工夫。周囲の手厚いサポートもあって、翌年には資格を取得している。

海外研修で知る日本との違い

福井工業大学では国の補助を得て、フランスやカナダへの海外研修を実施している。矢野さんは「海外の状況、特に日本の原発事故後の原子力発電関連の現況が知りたい」と、海外研修に手をあげ、無事に学科内選抜の厳しい課題をクリアした。大学と提携校で原子力人材の育成に多くの実績を残すカナダ・オンタリオ工科大学におい廃炉・廃棄物・緊急時支援関連の授業を受講したり、使用済燃料の乾式貯蔵用の容器を製造する会社などに研修に出向いた。建物ほどの大きさがありながら、IAEAの厳しい規定に沿った緻密な造りの貯蔵容器を手掛ける製品づくりや品質管理の技術などを学ぶとともに、『何十年先でも安全に管理し、利用する』という合理的な考え方にも刺激を受けたという。国による意識の違いが印象に残ったと振り返り、「エネルギーが乏しい日本の現実を考えると、原子力を扱える技術を持つのはエネルギーセキュリティとしても必要なこと。安全に管理し、利用しようという流れに持っていかなければと思いました」と話す。


繋げてくれている「技術のバトン」を繋ぎたい


海外研修だけでなく、国内でも数件のインターンシップや説明会に参加し、測定の技術を学んだりした他、国内の状況を深く知るために原発を規制する立場、運営する立場、第3者的な立場など様々な機関や会社に出向き、いろいろな角度から原発に関する見聞を広げた矢野さん。地球規模の環境変化などでエネルギーへの関心が高まる中、稼働している原子力発電所が少なく、技術者がその力を発揮する場が減っている日本の現況に、「原子力を安全に利用するためには人が支え続けていかなければならず、技術の継承は不可欠」と感じている。4年間の学びをほぼ終えた今、「先人たちが繋いでくれた技術のバトンを、自分が繋いでいきたい」と決意を新たにしている。

将来目指すのは「安心を届けられる技術者」。「原発立地の地元の人だけでなく、近隣の地域の人にも安全を届けたい。ちょっとでも安心してもらって、理解をしてもらえるよう取り組んでいきたいです」。原発隣接地域で感じた「知りたい」という想いを基に培われた確かな技術と広範な知識。原子力のことをもっと知ってもらいたい、そして安心に繋げたい、という思いが、矢野さんをひと味違った技術者にしていくようだ。

後輩たちへ「とりあえずやってみよう。先生も、先輩もいる!」

「原子力はエネルギーにも関わる重要な分野で、学びは広範囲になります。大学で学ぶのに、ついていけるのかどうか、最初は不安がありました」という矢野さん。「でも学科は少人数制で、先生や先輩との距離が近く、どんなことでも聞けば教えてもらえるので、不安はなくなりました。資格をとることができたのも、先生や先輩のアドバイスがあったからこそです」と振り返る。後輩たちには「一見無駄なこと、面倒なことでも、必ずどこかで役に立つ。僕も研究発表など面倒だと思っていたけれど、社会に出たら必要になる、発表する力がついて今はよかったと思っています。大学での学びは海外や国内での研修やインターン、発表など、いろいろ経験する機会を与えてもらえるので、その機会を生かしてほしい」とアドバイス。「今はコロナであまり顔を合わせられないけど、先生も、先輩もいるので、どんどん聞けばいい。とりあえず、いろんなことに取り組んでほしいです」と力強くエールを送った後、笑顔を見せていた。



学年学科名等は、取材時のものです。