熱中時間

FUTの人たちの最高の
時間をインタビュー
FUTの人たちはなぜ熱中しているのか。熱中するものだけが感じられる最高の時間とは何か、に密着する。

No.89
環境食品応用化学科 教授
笠井 利浩
theme:雨水活用による環境配慮社会へ

theme:雨水活用による環境配慮社会へ

『五島列島赤島活性化プロジェクト』を立ち上げ、3年かけて作り上げた雨水供給システム、それに合わせて子どもへの環境教育の実施、さらには家庭用雨水タンクの開発など、“雨水活用の社会”を“普通の社会”にするために力を注いでいるのが笠井利浩教授だ。

3年かけて手作業で作り上げた赤島の「雨水供給システム」

「雨水はときとして災害を引き起こしますが、雨は生命の源。雨がないと人も動物も植物も生きていけず、我々が普段使っている水源の川も元々は雨ですよね。加速している気候変動で浸水対策や渇水時・災害時にも有効なのが雨水です。それをみんなが普通に利用する世の中にしたいです」と熱く語る笠井教授。タンクに溜まった雨水を利用することは、トイレや園芸用の水利用の節水対策だけでなく、街中の局地的な豪雨の内水氾濫の緩和や災害時の緊急用の生活用水など、メリットが非常に多い。
そんな雨水の利用促進のために立ち上げたのが、実際に雨水生活をしている住民が暮らす赤島で行った『五島列島赤島活性化プロジェクト』。自身の研究室とデザイン学科の近藤研究室の学生たちと共に2017年からスタートさせ、3年間に渡って雨水を使った給水システムを完成させた。1年目は開墾から始まり、雨水を集める『雨畑』と名付けた波板の設置、2年目は3トンのタンクを2基設置、3年目には島唯一の宿泊施設まで約100mの配水管をつないだ。雨畑で集めた雨水をタンクにため、それを浄化した上で水を供給できるシステムを確立した。木を切って穴を掘るところから、タンク運びや配管の埋設作業まで、すべてを手作業でやったというから驚きだ。



島の活性化、そして子どもの環境教育へと繋げる

「島民のみなさんも最初は怪訝な雰囲気だったのが、徐々に友好的になってくれました。その協力体制のおかげでシステムが構築できた」と3年間を振り返り、感無量だという笠井教授。プロジェクトは雨水活用システムの構築だけが目的ではない。デザイン学科の近藤研究室と共同で、PRやブランディングもしている。プロジェクトは『しまあめラボ』と命名し、広報ツールを立ち上げ、映像も制作。3年かけて制作された映像は東京ドキュメンタリー映画祭に出品した。
さらに、小学生・中学生・高校生を対象に雨水だけで生活する体験ツアーも実施している。「赤島で生活すると、普段の我々の生活では気付かないことがたくさん発見できる。雨水生活をすることで、水の環境教育が実践できるのです」。赤島での雨水供給システムを構築する傍ら、子どもたちを連れて、島内の散策や雨水風呂、魚をさばいてつくるかまぼこ作りなど2泊3日の体験ツアーを行った。2018年の初ツアーの参加者は、わずか2人だったが、帰った子どもたちから「自分の家の水がじゃんじゃん使える」と水のありがたさに感動し、その噂を聞いて問い合わせが増えた。翌年のツアーには17人の子どもが参加し、宿泊施設に入りきらず、住民の家やテントを張って寝泊りすることになったという。「普段使っている水には実は限りがあることなど、水資源を考え、生活を見つめ直す機会になったのではないかと思います」。



開発した雨水タンクが特許を取得!グッドデザイン賞も受賞!

笠井教授が行っているのは赤島活性化プロジェクトだけではない。私たちの身近なところにも雨水を知ってもらおうと活動している。それが清水東公民館のパンプキンタンクだ。そもそもこれはスリランカの水道や地下水供給が難しい場所に設置されている雨水タンクで、現地では数百基設置されている。日本国内には東京に1基だけだったが、2015年に福井市清水東公民館に製作・設置した。学生を始め、地区の人が集まり、鉄筋の組み立てから金網貼り、モルタル作業を行って完成させた。公民館の屋根で取水した雨水がタンクに貯まり、公民館のビオトープの給水、花の水やり、冬季には公民館前の融雪にも利用されている。


2019年には、雨水タンクを販売する日盛興産と共同開発して、家庭用雨水タンク『Rain Harvest(レインハーベスト)』を商品化した。これは今までの雨水タンクの難点を解消したという優れものだ。「通常の雨水タンクは主に園芸用に使用されて、冬場になると使わなくなることが多く、長い間放置していると、水が腐敗してしまうのですが、その問題点を解決できました」。まず雨どいから水を引き込み、給水パイプから入った水が渦を作り、水中のゴミをすり鉢状の底に集める。そして水圧で底面から伸びるパイプを通ってタンク外へゴミを押し出すという仕組みだ。水質を保てるように、水が流入する角度や底面の形状など実験を重ね、2年がかりで開発、日盛興産は特許を取得した。また、くびれたフォルムでタンクの変形を防ぐなど、機能美も重視しグッドデザイン賞にも選ばれた。「見た目も大事なので、そこにも拘って作りました。雨が降れば自分できれいにしてくれる素晴らしいタンクができました」と笠井教授は感慨深く話す。


みんなが普通に雨水を利用する社会へ


雨水利用を広げるために、まだまだやることは多い。赤島では今後、汚れの多い初期雨水をコンピューター制御で効率的に取り除く装置の設置や、島民に利用してもらいながら給水システムのデータ収集を行っていく予定だ。また、子どもたちの体験プログラムも今後もっと充実させるという。何よりも目標は私たちの雨水意識を変えることだという笠井教授。「洗濯やトイレなどは十分賄えるという雨水の利用価値をもっと普及させたい。それには技術だけではなく、人の心を動かす必要があります。そのため、私は違う分野の人を集めて融合することが大事だと思っています。赤島だと、PRのためにデザイン分野、活性化のためにまちづくり分野の人と一緒に活動をする。様々な分野が集まって融合することで、1+1=2以上のことができるんです。最近は、人と人の橋渡しをすることが大学教員である私の役目だと思っています」と笑顔で応える。『どの家にも雨水タンクが1台ある社会』を目指す、その熱い想いはこれからも冷めることはない。



学年学科名等は、取材時のものです。